今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2021年12月「あじろ ふみこ」さん

あじろ ふみこ(あじろ ふみこ)さん

新潟県立高田北城高校卒後、国立清水海員学校・専修科(現・国立清水海上短期大学校)卒。東京港で150人乗り海上バスの船長兼機関長を務める。2000年会社員の夫と結婚、長男・長女二人の発達障害児を育てる。現在、東京都公立学校特別支援教室専門員。著書『母、ぐれちゃった。発達障害の息子と娘を育てた16年』(中央公論新社)

『右往左往の子育て体験。息子も娘も発達障害だった』

すごい勢いで移動して障子をバリバリと破り始めた

中川:
知り合いからあじろさんが書かれた『母、ぐれちゃった。発達障害の息子と娘を育てた16年』(中央公論新社)という本をすすめられました。 2人のお子さんが発達障害ということで、悪戦苦闘の子育てをされた様子が詳しく書かれていてとても興味深かったです。 発達障害のことはあまり知識がありませんでしたが、世間の理解もまだまだだし、悩んでいるお母さん方も多いのではないでしょうか。あじろさんの体験は、こうやればいいのか、こう考えればいいのかと、参考になるかと思います。
あじろ:
ありがとうございます。 これまでは、学校は毎日行かないといけないし、いろいろな方とかかわるのがいいことだとされてきました。それが適応力があるということだったんですね。 ところが、今はコロナ禍で、学校が休みになったり、人とかかわってはいけませんという風潮になっているじゃないですか。真逆ですよね。 適応力があるとされてきた子は戸惑っていると思いますよ。親御さんもそうです。遊ばせる場所がない、学校へ行かなくて大丈夫だろうかと、心配になってしまいます。 だけど、発達障害の子は、家の中でゆっくりできて、友だちと緊張状態の中で付き合う必要がないというのはとても快適です。コロナ禍の社会に適応しているんですね(笑)。 そういうものの見方もあるということを知るのもとても大事かなと思ったりしています。
中川:
確かにそうですね。状況に応じて、プラスがマイナスになったりマイナスがプラスになったりしますね。 息子さんが普通の子とは違うなと感じたのはいつごろですか?
あじろ:
生まれたときから「なんか変」と感じていました。とにかく寝ないで泣きまくるんです。抱っこしているといいのですが、床におろしたとたんにギャーと泣くんです。絶対に寝ない。 家で抱っこしていても泣くようになって、夜風に当たりながら外で抱っこしていたこともありました。 公民館で7 ヵ月から1 歳2ヵ月までの子どもを対象とした子育てサークルに参加しました。 ほとんどの子どもたちはお母さんの膝に乗って絵本を読んでもらったり、おもちゃで遊んでいるのに、うちの息子は絵本やおもちゃには見向きもしませんでした。 すたすたと障子のもとへ向かい、障子を次々と破いていったのです。ものすごいパワーです。 つかまえると大声で泣き、離すと一目散に障子に向かっていって、また破き始める。障子の下の方のマスは全滅でした(笑)。
中川:
それは大変だ。
あじろ:
買い物に連れて行っても大変です。息子がスーパーへ入ったとたんに突進していく場所はお菓子コーナーではなくて鮮魚売り場。ケースの中に入った鮮魚をつかんで大騒ぎするんです。 水たっぷりの樽にドジョウを入れて売っていたことがありました。おもむろに樽に両手を突っ込み水をばしゃばしゃかき混ぜながらドジョウとたわむれ始めました。床は水浸し。ドジョウだって飛び出したりしますよ。必死で止めようとしましたが、全身全霊で号泣ですよ。もう収拾がつきません。ほんの数分が永遠と思うほどの長い時間に思えました(笑)。
中川:
すごいですね。そんな状態だと出かけられなくなりますよね。
あじろ:
息子のように何をするかわからない子どもを育てていると、家に引きこもっていたほうが、他人の目を気にする必要もないし、他人に迷惑をかける心配もないので安心かもしれません。 でもそれって、「しつけもまともにできないダメな親」と非難されるのがいやだというのが本心だと思うんですね。人は体験を積むことで成長する、と私は信じているので、息子をあちこち連れて行きました。
中川:
まわりからいろいろ心ないことも言われたんじゃないですか。
あじろ:
事情を知らない人たちが、目の前で起こった出来事だけで非難を口にするのには参りましたね。上から目線で「私が正してあげる」というある種の正義というんでしょうか、もっと相手の立場に立って、非難ではない別の伝え方があるのではと思いました。 理不尽な非難を受けて、最初は悲しんでいましたが、何度もそういう体験をするうちに、私は「言うのは相手の自由。聞かなかったことにするのは私の自由」と割り切ることができるようになりました。 とにかく何が大切なのかと考えました。私が非難されないのが大切ではなく、息子にいろいろな経験をさせてあげることを優先しよう。そのためには、私が防波堤になる、と覚悟を決めましたね。


<後略>

東京・池袋のSAS東京センターにて 構成/小原田泰久

母、ぐれちゃった。発達障害の息子と娘を育てた16年

あじろ ふみこ (著)
‎ 中央公論新社

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