今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2007年2月 「古崎 新太郎」さん

古崎 新太郎(ふるさき しんたろう)さん

1938年東京生まれ。工学博士。1960年東京大学工学部卒。64年マサチューセッツ工科大学大学院修士課程修了。東洋高圧工業(現三井化学)を経て、東京大学大学院教授、98年九州大学大学院教授、2001年より崇城大学教授。96年度化学工学会会長。2003年、04年度日本膜学会会長。2000年より3年間日本学術会議会員を務め、研究連絡委員会委員長。化学兵器禁止機関(在オランダ)科学諮問委員。主な著書に『工学のためのバイオテクノロジー』『移動速度論』『バイオ生産物の分離工学』など。化学工学会学会賞、池田亀三郎記念賞受賞。現在崇城大学教授、東京大学名誉教授、日本学術会議連携会員。

『ミカルエンジニアからの提唱 「環境保全への提言と次世代に託す明るい将来」』

循環型社会を包括しエコバランスのとれた「エコトピア」

中川:
インターネットで「環境対策」について検索していましたら、古崎先生の「生態系に配慮した理想郷『エコトピア社会』の構築をめざして」という記事が目に留まりました。エコトピアとは初めて聞く言葉でしたが、「エコ」はエコロジー、つまり生物と生活環境との関連を研究する生態学のことですね。それと理想郷のユートピアと繋げた語だそうで、これは面白そうだと興味が湧きました。でも、資料を拝見すると随分難しそうですし、東大名誉教授でいらっしゃる先生にお話をうかがって、私どもが理解できるのかと、ちょっと躊躇していました(笑)。ご了承いただきまして、有り難うございます。今日は、先生の求めておられる方向性やお考えについてお話をうかがいたいと思います。
古崎:
話が専門的になってしまうかもしれませんが、何かお役に立つことがあればとお引き受けしました。東大を定年まで勤め上げましたので、名誉教授というわけですが、定年後九州大学教授を経て、今は熊本の崇城(そうじょう)大学の生物生命学部応用生命科学科で教えております。
中川:
私どものセンターが熊本と福岡にあるので、移動するときによくJRを利用するのですが、電車の中から見えますね。以前は確か、熊本工業大学といったように思いますが。
古崎:
2年程前に総合大学になり、創立者で前学長の名前の1字「崇」を取り、それから熊本城のすぐ側ですから「城」をと、そういうようなことで大学名が決まったと聞いています。また、「崇」には「高める」という意味も込められているようです。
中川さんがインターネットでご覧になったのは、3年前に発表した日本学術会前の1字「崇」を取り、議の化学工学研究連絡委員会の報告書でしょう。地球環境問題の解決や循環型社会構築のあり方について、化学工学の立場から社会に対する提言をまとめました。化学工学はもともと化学装置の設計から始まった学問ですが、その後種々のシステムを対象とするようになって、いまや解析の対象を問わないといっても過言ではありません。トータルでものを見ることができるという点が化学工学の強みで、循環型社会はそうした学問には最適のテーマといえます。エコトピアというのは、1981年にアメリカのアーネスト・カレンバックという方の命名です。
中川:
エコトピアは、地球環境問題を解決しながら、循環型社会を目指すということでしょうか。
古崎:
循環型社会は「資源・エネルギーの供給の限界を克服する持続型社会」といえますが、エコトピア社会とは、それと同時にまた「良好な環境を維持して自然と共存する社会」ということができます。エコトピアという言葉には、そうした生態系に悪影響を及ぼさないユートピア(理想郷)、環境に配慮した持続型社会という意味が込められています。いずれにしても、循環型社会を包括する、もっと大きなエコバランスの実現をめざすのが、我々の提言の趣旨です。
20世紀は、大量生産、大量消費、大量廃棄の時代でした。こういうスタイルを続けていれば、食糧が無くなり、環境破壊が進み、ローマクラブの「成長の限界」でも主張されたように、人類社会はあと100年位で破局を迎えると警鐘を鳴らす人もいるほどです。ESH…つまり環境と安全と健康ですが、それらが保たれた美しい社会に安心して住める、それにはどうしたらよいかということで、委員会で提案したのはシンクタンクではなく、ドゥタンクです。
中川:
なるほど、「ドゥタンク」ですか。「シンクタンク」というのは、各分野の学者からなる総合的研究組織のことですね。そのシンクタンクではないということは、「Think考える」だけではなく、「Do」つまり「実践」を備えたということですか。行動することが重要だと。
古崎:
うです。学術会議が内閣府の下にありますから、実行につながるビジョンを持ち、具体的政策の立案を行うということですね。先程も言いましたように、エコトピアは循環型社会と同じかというと、それだけでは不十分で、これは難しい問題なのです。例えば、車は部品の95%以上がリサイクルできますが、リサイクル率を極端に上げようとすると多量のエネルギーを使います。物を循環させるために、エネルギーを消費し、環境を汚染してしまうことになり、あちら立てればこちらが立たずということになります。
塩ビにしても塩素を含むからすべてダメだとは私は考えていません。鉄なら微生物が分解して土に戻るから自然に優しいといっても、それは錆びて劣化してしまうということですから、地中に埋設するなら鉄管より耐久性に優れた塩ビ管の方がいいのです。塩ビは非常に有効性の高いものですから、適材適所で使えばいいと思います。
中川:
要は、バランスの問題なのでしょうか。
古崎:
そうですね。例えば、家電リサイクル法では、リサイクル率95%といった目標を定めていますが、極端にリサイクル率を競うことにどんな意味があるのか疑問に思います。無理なリサイクルを進めることで無駄なエネルギーを消費したり、経済性が無視されてしまう場合もあるからです。
科学技術だけでなく社会科学までも含むトータルな視点で計画を立案して社会を指導していく機関が必要です。そして、やはり、最終的にはライフスタイルの変革がエコトピア社会の鍵となると思います。バランスの取れたリサイクルに加えてリスタイルの実現ですね。子供たちの将来を考えて、無駄なエネルギーを使わない、無駄な買い物をしない、そういった生活への転換が是非とも必要です。

<後略>

(2006年10月13日  熊本市崇城大学にて 構成 須田玲子)

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