今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2020年3月「髙信 幸男」さん

髙信幸男

髙信 幸男(たかのぶ・ゆきお)さん

1956年茨城県大子町生まれ。水戸、札幌、さいたま、甲府、東京、横浜の法務局に勤務し、2017年(平成29年)に退官する。高校時代から名字の研究をし、名字の由来やエピソードを本に書いたり、講演会等で発表している。多くのテレビやラジオの番組にも出演している。主な著書『難読稀姓辞典』『名字歳時記』(日本加除出版)『トク盛り「名字」丼』(柏書房)など。

『すべての名字に ご先祖様の思いがのっている』

四月一日と書いて 「わたぬき」さん。 小鳥遊で「たかなし」さん

中川:
茨城にお住いの私どもの会員さんが、髙信先生の講演をお聞きしてとてもいいお話だったので対談してみてはいかがですかとすすめてくださいました。さっそく先生の書かれた『トク盛り「名字」丼』(柏書房)を読ませていただきました。面白かったですね。名字がこれほど奥深いものとは思いませんでした。
髙信:
ありがとうございます。私は16歳のときに名字に興味をもちましてね。以来、半世紀近く名字を研究しています。珍しい名字は限りなくあって、珍名を探すのは昆虫や植物の新種を追いかけるのと同じですよ。この名字のルーツは何だろうとか、興味は広がっていくし、終わりのない研究ですね(笑)。
中川:
16歳のときに名字に興味をもたれたのですか。髙信さんはもともと法務局に勤める国家公務員で、今は司法書士をしておられるので、その関係で名字研究を始めたのだと思っていましたよ。
髙信:
法務局は戸籍や不動産登記に関する業務を行っていますから仕事絡みで名字に興味をもったと思われますが、そうじゃないんですね。仕事と名字研究とはたまたまの縁でしかありません。
中川:
16歳というと高校生ですが、どんなきっかけで名字に興味をもたれたのですか。
髙信:
私が生まれたのは茨城県北部の大だい子ご 町という福島県や栃木県と接する小さな町です。かつては人口4 万2 0 0 0 人くらいの町だったのですが、今は1万5000人ほどに減りました。
日本三大名瀑の一つである袋田の滝が有名ですが、私の生家は滝の上、源流にありました。とんでもないところでしょ(笑)。
中川:
滝の上ですか?
髙信:
そうですよ。観光客は下から滝を見上げていますが、断崖絶壁の上に家があるなんてだれも想像しないと思います(笑)。ここで生まれなければ名字の研究などやってなかったでしょうね。
中学校のとき、生徒が360人くらいいましたが、名字は30くらいしかありませんでした。みんなが同じ名字で下の名前で呼び合っていました。そのころは、名字の数はそんなにないと思っていました。
高校に入ってびっくりしました。50人のクラスで45の名字があったんですね。みんな名字がバラバラ。こんなに名字ってあるの? と思って、電話帳で町の名字を調べ始めました。意外に多くて数百種類はあったかな。小さな田舎町でこんなにあるなら日本全国ではどれくらいあるだろうと興味が湧いてきて、電話帳を丹念に見るようになりました。
中川:
それで珍名さんに出あうんですね。
髙信:
あるとき電話帳で「四月一日」という名字を見つけました。最初は、どうしてこんなところに日付があるのだろうと不思議に思いました。でもよく見ると名字らしい。それも渡辺さんが並んでいるあとにポツンとあるんですね。なんて読むのだろう?
俄然、興味が湧いてきました。疑問に思うとすぐに解明したくなるたちで、すぐにそこに出ている電話番号に電話をしてみました。そしたら「わたぬきです」と電話に出られたんです。四月一日と書いて「わたぬき」と読むんだ。私にしてみればとんでもない発見をした気分でした。すぐにどうしてそんな読み方をするのですかと質問しました。先方は迷惑がらずにていねいに答えてくれました。
中川:
確かに四月一日という名字があるとは思わないし、だれも「わたぬき」なんて読めないですよね。
髙信:
由来を聞いて、こんなふうに名字がつけられることがあるんだとまたまたびっくりしました。4月になると綿入れから綿を抜いたからというのが理由の、トンチのきいた名字なんですね。それでますます興味が出てきたというわけです。
中川:
名字をつけるにも遊び心があったんですね。「小鳥遊」と書いて「たかなし」と読ませる名字もあるそうですね。
髙信:
1872年(明治5年)に全国的な戸籍制度(壬申戸籍)ができ、1875年(明治8年)には全国民が戸籍に名字を登録しなければならなくなりました。そのときに、先祖から伝わった名字をそのまま役所に届けを出すのではつまらないと考えた人がいたようです。
「たかなし」さんもその1人で、もともとは「高梨」と書いていましたが、高梨を「鷹無」と書き換え、さらに鷹がいなければ小鳥が自由に遊べるということで「小鳥遊」と書いて「たかなし」と読ませたようです。こんなユニークな発想で名字をつけるのは日本人くらいです。
中川:
世界でも日本の名字の数は特に多いそうですね。
髙信:
お隣の中国は人口が14億人もいるのに名字の数は4000種類程度、韓国は約5000万人の人口に対して名字の数が500くらいです。日本は約13万種類もの名字があるんですね。佐藤、鈴木、高橋がベストスリーで、ベスト10だけで日本の人口の1割を占めますが、たった1軒だけだとか数軒しかない名字がたくさんあります。

<攻略>

2020年1月 22日 茨城県水戸市の髙信幸男さんのご自宅にて 構成/小原田泰久

著書の紹介

日本全国歩いた! 調べた! トク盛り「名字」丼 髙信幸男 緒 (柏書房)

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