今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2013年7月 「すずき じゅんいち」さん

すずき じゅんいち(すずき じゅんいち)さん

本名・鈴木 潤一。1952年神奈川県生まれ。東京大学卒業後、日活に助監督として入社。『マリリンに逢いたい』『砂の上のロビンソン』『秋桜』など、22本の劇映画を監督する。2001年、女優の榊原るみと結婚。以降、11年にわたってアメリカに住み、日系アメリカ人社会との出あいから、戦時下の日系人の歴史を記録することを決意した。著書に「1941 日系アメリカ人と大和魂」(文藝春秋)がある。

『貴重な映像から明らかになる戦時下の日系アメリカ人の真実』

日系アメリカ人の歴史をあまりにも知らないことに呆然

中川:
ロスにお住まいの会員さんから、「日系アメリカ人のことを描いた、すごくいいドキュメンタリー映画がある」と教えていただきました。太平洋戦争のとき、日系アメリカ人が情報収集に大活躍して、そういう人たちがいたから、戦争の集結も2年早まったと言われているのだそうですね。自分が住んでいる国と故郷とも言える国が戦争したのですから、日本で生まれて育った者にとっては、想像できないような難しい立場にいたわけですよね。正直、申し訳なかったと思うのですが、そういった方々のことは、考えたこともなかったですね。
ぜひ、見たいと思っていたのですが、上映が終わってしまっていて、残念だったと思っていたら、その前にも2作、監督は、日系アメリカ人のことを描いておられるとわかったので、すぐにDVDで拝見しました。3部作となっていますが、どういうきっかけでこういう映画を作ろうと思われたのですか。
すずき:
見ていただいてありがとうございます。ボクは、2001年にアメリカの永住権をもらって、せっかくもらったからと、アメリカに移住し、ロスに11年間住みました。ロスでは、多くの日系アメリカ人と知り合いになりました。彼らと親しくなるうち、彼らの歴史を自分があまりにも知らないことに気づいて呆然としました。日系アメリカ人のことは、日本人として知らないといけないし、その足跡も残さないといけないと、柄にもなく真面目に考えましてね(笑)。こういうことに偶然出会ったのも意味があることだし、ボクにできることは映画を作ることだから、映画にして残そうと思って動き始めました。
そしたら、Yさんという70代後半の女性に会いまして、彼女から収容所体験によって家族がバラバラになったという話をお聞きしました。戦争が始まって、日系アメリカ人は刑務所のような収容所へ強制的に入れられました。その仕打ちを彼女は心から恨んでいました。そして、膨大な量の強制収容所に関する本やDVD、ビデオテープ、写真集をもっていて、自分でその意味を考え続けていました。ボクが、日系アメリカ人の歴史に興味をもっていると知って、その資料を貸してくれました。それが3部作を作るきっかけですね。
中川:
私もDVDを拝見して、自分は何も知らなかったということを思い知らされました。みなさん、高齢になっていますし、証言を残すチャンスは、今しかないですよね。収容所の生活を撮り続けてきたカメラマンの東洋宮武さんを描いた『東洋宮武が覗いた時代』(2008年)から始まって、ヨーロッパの戦線で大活躍した日系兵士中心の部隊が主役の『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』(2010年)、それに日系兵士中心の軍秘密情報組織(ミリタリー・インテリジェンス・サービス=MIS)をテーマにした『二つの祖国で・日系陸軍情報部』(2012年)と続くわけですが、最初から3部作というのは意識されていたのですか。
すずき:
3本できればいいけれども、ビジネス的には期待できないので、無理だろうなと思っていました。だから、1本目の東洋宮武を作ったときには、この1本で終わってしまっても悔いはないようにと、442部隊のことも、MISのことも入れて、戦争のときの日系史全体を描くようにしました。442部隊のときも、これで終わってもいいようにと考えましたね。
MISのことはほとんどの人が知りませんから、これを一番描きたかったのですが、強制収容所のことも、戦地で戦った人たちのこともきちんと描いておかないと、なかなか理解できない部分もあるので、ここまでたどりつけて、本当に良かったと思っています。
中川:
とても意味のあるお仕事ですから、きっと、いろいろな力にも応援されて、3本作ることができたのだと思います。
すずき:
日本では一本目の「東洋宮武が覗いた時代」は、あまりお客さんが入りませんでしたし、アメリカでもメジャーにはなりませんでした。それでも、リトル東京で上映したときは、日米劇場という800席以上ある大きな会場でやったのですが、25年以上の歴史ある劇場ができて以来の一日当たりの最高の動員数を記録しました。3回の上映予定だったのですが、入りきれない人が続出したので4回やりました。
この映画を見てくださったポール・テラサキさんという方が、次、映画作るなら支援してあげると、好意的なことを言ってくださったのです。その支援があったので、2本目、3本目と進むことができました。

(後略)

(2013年4月17日 東京都千代田区のフィルムヴォイスにて 構成 小原田泰久)

著書・DVDの紹介

左上:1941 日系アメリカ人と大和魂 [単行本] 出版社: 文藝春秋
右上:二つの祖国で日系陸軍情報部 [DVD] 販売元: ワック
左下:442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍 [DVD] 販売元: フイルムヴォイス
右下:東洋宮武が覗いた時代 [DVD] 販売元: ワック

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