今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2018年5月 「梶原 誠」さん

梶原 誠(かじわら まこと)さん

画家。絵本作家。アートディレクター。1967年大阪府生まれ。1988年から葦プロダクション(現プロダクションリード)のアニメーターとして活動。2016年「はじめてのしんかんせん」の挿絵を担当。日本で初めての細密画による絵本として話題になる。2017年から世界堂新宿本店絵画教室アートカルチャーで鉛筆画、色鉛筆画の講師を務めている。

『人物や風景。写真とは違ったリアルさを鉛筆や色鉛筆で描く』

絵にすると写真では出せないものが出せることがある

中川:
梶原さんは画家としてご活躍されていて、今、鉛筆を使ってリアルに表現する絵がとても注目されています。作品をホームページで拝見しました。鉛筆や色鉛筆でこのような写真みたいな絵が描けるんですね。驚きました。
梶原:
ありがとうございます。ああいう絵を鉛筆画とか色鉛筆画とか細密画と言います。鉛筆の方が消しゴムで消したり、ぼかしたりできるのでよりリアルに描けますね。
この「はじめてのしんかんせん」という絵本は私が挿絵を担当しました。子どもたちは、最初は写真だと思ってページをめくるのですが、よく見るうちに絵だとわかって目を丸くします。
中川:
本当ですね。ぱっと見ただけだと絵だとは思わないですよ。こんな絵本はなかなかないですね。
梶原:
一部にカラーが入ると全体が明るくなりますね。
私は鉛筆画も色鉛筆画も描きますが、鉛筆と色鉛筆とでは、それぞれ使い勝手のいい紙が違うので使い分けています。鉛筆画でリアルに描くにはつるつるのケント紙を使います。色鉛筆画ではざらざら感のある水彩紙などを使います。
この絵本の中に鉛筆と色鉛筆をほぼ半分ずつくらい使った絵があるのですが、これは難しかったですね。まずはどっちの紙を使うか迷いました。鉛筆で描く範囲の方が大きかったのでケント紙を使いましたが、鉛筆と色鉛筆が重なる部分には硬い鉛筆を使うなどいろいろと工夫をしました。
中川:
今日は何枚か作品をもってきていただきましたが、この女性を描いた鉛筆画は髪の毛にすごく張りがありますよね。でも、よく見ると、髪の毛の中に白い色が見えます。光が当たっているところなんですかね。これはどうしているのですか。
梶原:
消しゴムを使います。ペンのようになった細い消しゴムがありまして、それで線を入れます。そうすると光が当たっているように見えます。
中川:
写真みたいな絵ですが、写真よりも柔らかな感じがしますよね。何て言えばいいんだろう。表現が難しいですよね。
この女性は、髪の毛が顔に少しかかっているのですが、これも鉛筆でさっと線を引いて描かれたものですか。
梶原:
そうですね。すっと引いています。
中川:
ただの線では髪の毛らしさは出ないですよね。どうしてこんな線が引けるんだろうと思いますよ。こうした絵は写真を見て描かれるんですね。
梶原:
そうですね。今は写真の解像度がすごく良くなっていますので、写真を撮ってそれを絵にすることが多いですね。でも、写真と同じに描いてもつまらないですから、写真以上のものにしたいという気持ちはいつももっています。
中川:
リアルに描いているのですが、写真とは違った味がありますよね。
梶原:
絵は作者の感覚や感性、オリジナリティが出て、写真には出ないものが出るのではないかと思っています。ですから、同じ写真を見て描いた絵であっても、慣れてくればだれが描いたかわかります。写真にそっくりなリアルな絵を描いているのに、作者によってそこに何かわからないけれども微妙な違いが出ます。それが面白いところじゃないでしょうか。
中川:
個性が出るんでしょうね。この絵を描くのにどれくらい時間がかかるんですか。
梶原:
早くても10時間くらいですかね。30時間くらいかかる作品もあります。
中川:
そうでしょうね。絵には作者の氣が込められると思うんですね。そんなにも時間をかけて、集中して描いているわけですからね。だから、同じ写真を見て同じように描いても、どこか違いがあるのではないでしょうか。作者の描き方や癖もあるでしょうが、見ている人は絵が発している氣を感じているのかもしれませんね。
Youtubeで梶原さんが絵を描き上げるまでを早送りで撮っている動画が見られますが、完成に近づくにつれて紙の中から人が浮き上がってくるような感じがしますよね。まるで、命を吹き込んでいるみたいですよ。
梶原:
ぼくは、写生画と空想画との混合画法だと言っているのですが、写真のまま描くのではなく、背景を変えたりすることで、違った雰囲気を作ることができますね。写真と違って絵はいろいろとアレンジができます。肖像画を頼まれることありますが、写真の通りではなく、こうしてほしいという注文があれば、それに応じます。部屋の中で撮った写真だけども、それを森の中にいるような感じにするといったことも可能です。

<後略>

(2018年3月26日 東京日比谷松本楼にて 構成/小原田泰久)

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