今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2013年11月「稲垣 栄洋」さん

稲垣 栄洋(いながき ひでひろ)さん

1968 年静岡県生まれ。農学博士。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入る。1995年に退職し、静岡県職員に。現在、静岡大学大学院農学研究科教授として農業研究に携わるかたわら、雑草や昆虫などに関する著述、講演を行っている。著書に、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)『都会の雑草、発見と楽しみ方』(朝日新書)などがある。

『逆境をプラスに変える雑草の生き方から人生を学ぶ』

雑草は、弱いから競争相手のいない場所を選んで芽を出す

中川:
先生のご著書『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)を拝読しました。やっかい者だと思われている雑草ですが、現代のような激動の時代にこそ、彼らの〝生き方〟が参考になるというお話、とても興味深く読ませていただきました。
先生がおっしゃっている「ルデラルな生き方」というのはどういうことでしょうか。そこからお話をお聞かせいただけますか。
稲垣:
ありがとうございます。「ルデラル」を理解するには、雑草に対するイメージを変えていただく必要があるかもしれません。
雑草というと、「ぜったいにあきらめない雑草魂」とか「雑草のようにたくましく」とか「踏まれても踏まれても立ち上がる」とか、強いイメージがありますが、実際にはとても弱い植物で、彼らは弱くても生きられる戦略をもっているからこそ、あんなふうにあちこちにはびこることができるのです。彼らは、競争して勝ったから生き残っているわけでもないし、特別にストレスに強いわけでもありません。雑草の生き方は、実にしたたかで合理的なのです。
たとえば、コンクリートの割れ目から顔を出している雑草があります。あの姿を見ると、雑草は強いなと思ってしまいますが、あれこそ、彼らの生き残るための戦略です。弱いから、競争相手のいない場所を選んで芽を出しているのです。ルデラルというのは、荒れ地を生き延びる植物のもつ性質を言います。彼らは、強いから荒れ地で生き残れるわけではなく、荒れ地のような変化に富んでいて、とても困難な環境だからこそ生きていける戦略をもっています。
たとえば、野球でもサッカーでも、条件が整っていれば、実力通りの結果になる場合がほとんどです。しかし、グランドがぬかるんでいて、風が強くて、雨が降っていて、という条件だと、どちらが勝つかわからなくなります。条件が悪ければ、強いものも実力を発揮できません。弱い方も実力が発揮できないかもしれませんが、もし、弱い方のチームがいつもぬかるんだところで練習していたとしたら、番狂わせを起こせる可能性も高まります。
中川:
なるほど。恵まれた環境だと、結局、力の強いものが勝ちますから、わざわざ恵まれない環境を選び、そこに適応できるような形で生き残るということですね。
でも、雑草が弱いというのは、意外な気がしますね。
稲垣:
雑草は、ほかの植物がたくさんあると生えてこられないんですよ。豊かな森林には、雑草は生えてないはずですよ。ほかの植物を押しのけて自分が目立つということを雑草はできないのです。雑草は、道端とか、人が踏んで歩くところに生えてきます。競争しなくても生きられる場所を、雑草たちは選んで、その環境に適応できるようにして、生き残るのです。
中川:
そう言われればそうかもしれないですね。ところで、雑草というのは定義されているんでしょうか。
稲垣:
雑草と言うのは、邪魔者になる植物と考えればいいのではないでしょうか。山野草は雑草とは言わないですからね。田んぼや畑や道端に生えて、邪魔になるものというくらいの認識しかないですね。
実は、雑草という言葉は、あまり科学的な言葉ではありません。アメリカ雑草学会では、望まれないところに生える植物と定義されていますが、とてもあいまいです。たとえば、ヨモギなんかは、それを邪魔だと見る人がいれば雑草ですが、草餅の材料として使う人にとっては雑草ではないわけです。人によって違ってきたりします。だから、邪魔者になりやすい植物ということでいいのではないでしょうか。
中川:
そうですか。雑草というのは、学術的な言葉じゃないんですね。でも、先生は、どうしてまた、雑草を研究しようと思われたのですか。
稲垣:
農学部ですから、作物をどう育てるかというのが本来のテーマです。あるとき、作物を育てていたら、畑の横の方に雑草が生えてきました。指導してくれていた先生に「これは何という植物でしょうか」と聞いたら、「花が咲いたらわかるから、花が咲くまで育ててみなさい」と言われました。それで、いつもこの雑草を見ていたら、作物よりも雑草の方が面白くなってきました。
雑草というのは、知れば知るほど興味深い植物なんですね。作物は、ある程度、人間の予想通り予定通りに育っていきます。しかし、雑草は、そのときの環境に合わせて成長の仕方が変わります。人間の思い通りにはいきません。早く花を咲かせたり、遅かったりするんですね。次、どうなるのか、予測がつきません。雑草は育てるとなると、とても難しいですね。

(後略)

(2013年9月10日 静岡大学農学部附属 地域フィールド科学教育研究センター 藤枝フィールドにて 構成 小原田泰久)

著書の紹介

雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方 稲垣 栄洋 著 (亜紀書房)

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