今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2015年9月 「汐見 稔幸」さん

汐見 稔幸(しおみ としゆき)さん

1947年大阪府生まれ。東京大学教育学部卒。同大学院博士課程修了。現在、白梅学園大学学長、東京大学名誉教授。専門は教育学、育児学。育児や保育を総合的な人間学と位置づけ、その総合化=学問化を自らの使命と考えている。主な著書に、「はじめて出会う育児の百科(共著、小学館)「小学生 学力を伸ばす 生きる力を育てる」(主婦の友社)「本当は怖い小学一年生」(ポプラ新書)などがある。

『目に見えない世界を感じる力を磨いていくことこそ教育の本質』

答えのわかっていない問題を解決する力が求められている

中川:
この対談では、さまざまな分野の方にお話をうかがっていますが、あまり教育関係の方をお迎えする機会はありませんでした。今回は、教育の専門家である汐見先生ということで、とても楽しみにしていました。
汐見:
ありがとうございます。この「月刊ハイゲンキ」を拝見していたら、沖ヨガの龍村修先生が記事を書いておられるので、びっくりしました。私も、ヨガと言いますか、ヨガもどきをやっていまして(笑)、私が指導を受けている先生と龍村先生とは、沖ヨガの弟子仲間ということで、龍村先生ともその縁で親しくさせていただいています。
中川:
そうですか。それは驚きです。龍村先生は、私の父の時代から、お世話になっていて、今でも毎月行っている真氣光研修講座の講師をしていただいています。
龍村先生とのご縁は知らなかったのですが、私は、汐見先生のお書きになった「本当は怖い小学一年生」という本を読ませていただいて、教育の世界も、いろいろな問題を抱えているんだなと、改めて思いました。それで、教育のことに興味をもって、お話をうかがえればと思いうかがったという次第です。
汐見:
私は、学校にもヨガを取り入れたらいいんじゃないかと、真剣に考えているくらいです。今は、大きな過渡期にあって、学習指導要領も、国が変えようとしているところです。
中川:
過渡期ですか。
汐見:
今の学校教育というのは、トーク&チョーク方式と呼んでいますが、先生が黒板に板書して、それをノートに写させて、しっかりと覚えておけよという方法です。先生が教えてくれたことをどれだけ正確に覚えるか、それが学力を計る物差しとなります。そういうやり方にうまく対応できる人間をどんどんと作っていけば、社会がうまく流れて行くという考え方ですね。
たとえば企業なら、作るものが決まっていて、いかに早く作るか、いかにたくさん売るかというのが大事なテーマだという時代では、そういう教育をやって、とにかくがんばる人材を作れば結果は出ます。外国が7時間働くなら、こちらは9時間、10時間働くぞということで、競争に勝てるわけです。受験勉強というのは、そのためのトレーニングです。四当五落でがんばった子どもが、人生の勝ち組となります。
「蛍の光」という歌がありますね。あれは、貧しい環境でがんばる人間こそ立派だと思わせるための歌です。
中川:
二宮金次郎の像も、そういう意味ですよね。薪を背負い働きながら勉強をしている。とにかく、がんばって欧米に追い付くんだということでしょうね。
汐見:
とにかく、がんばることが大事だと教え込もうとしてきました。でも、仏教では、がんばるというのは、「我を張る」ということで、してはいけないという意味だったそうです。我執にこだわる、無理をする。自分の体が求めてないことをするという意味です。
中川:
とにかく、我慢してがんばるのが偉いという教育で、そのトレーニングの場が学校だったんですね。でも、それがあったからこそ、日本は大きく発展してきたという面もありますよね。
汐見:
確かに、そういうやり方が良かった時代があります。ところが、今の日本は、成熟社会になって、がんばれ、がんばれでは立ち行かなくなっています。
人々は何をほしがっているのか、地球の環境はどうなのかまで考えていかないといけないようになってきました。産業も、新しいアイデアを柔軟に生み出す知性がないと、世界に太刀打ちできなくなっています。学校時代に、これを覚えておけばいいんだというような教育ばかりを受けていたのでは、指示された通りにやることはできても、果たして、新しいものや関係を美しく生み出す力がつくのだろうかということですね。
中川:
過去の経験だけでは解決できないことがいっぱいありますからね。ゼロから何かを作り出すかというような発想力が必要ですね。
汐見:
私のような団塊の世代も、同じような教育を受けてきました。しかし、私たちが子どものころは、野原や河原、道端で、いろいろと遊びを工夫していました。学校では型にはまった教育を受けましたが、遊びの中から知恵が生み出されました。今は、生活の中で工夫をする余地もありません。何でも与えられて、それ以外はダメということになり、その枠にきちんとはまる子がいい子だと評価されます。
このままだと、地球環境は悪くなるし、人口は増えるし、貧困も大変だという世の中になっていきます。だれも答えをもっていない問題に立ち向かっていかないといけないわけです。今までの教育の中で、いいと評価されてきた中身では、とても手に負えないのではないでしょうか。私は、「大人たちは地球資源を無駄使いして許せない。俺たちはこうやって世の中を良くしてやる!」と言うくらいの気概のある若者が出てきてほしいと思っていますよ。

<後略>

(2015年7月7日 東京都 小平市・白梅学園大学にて 構成 小原田泰久)

著書の紹介

「本当は怖い小学一年生」 汐見稔幸 著(ポプラ新書)

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