今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2011年10月 「稲塚 秀孝」さん

稲塚 秀孝(いなづか ひでたか)さん

1950年北海道生まれ。中央大学卒業。1973年㈱テレビマンユニオンに入社し、「遠くへ行きたい」や「オーケストラがやってきた」を担当する。以後、数々のドキュメンタリーや情報番組を手がけた後、1985年に㈱タキオン、2001年には㈲タキシーズを設立。「ネイチャリング・スペシャル アマゾン紀行」で民間放送連盟優秀賞を、「ドキュメンタリー・スペシャル 人間の筏」で民間放送連盟優秀賞、ATPドキュメンタリー部門優秀賞を受賞。

『人間の世界に核はいらない。二重被爆者からのメッセージを伝える』

広島で被爆した後、長崎 へ帰って2度目の被爆

中川:
稲塚さんの作られた「二重被爆」という映画をDVDで拝見しました。1945年に広島と長崎に原爆が落とされましたが、あのときに、両方で被爆した方がいたんですね。その事実だけでも驚きですが、あの映画に出ておられる山口彊つとむさんが話された言葉一つひとつがとても衝撃的でした。
稲塚:
ありがとうございます。あの映画が2006年に上映されまして、山口さんが2010年に93歳で亡くなり、その1年後に「二重被爆~語り部山口彊の遺言」ができました。中川会長は、最初の作品の方を見てくださったんですね。
中川:
そうです。2作目もぜひ拝見させていただきます。ところで、「二重被爆」という言葉、あまり耳にしませんが、山口さんの例で少し説明してくださいますか。
稲塚:
1945年8月6日には広島、8月9日には長崎に原爆が投下されました。山口さんは、長崎の生まれで、三菱造船の技師として長崎で働いていました。その年の5月、山口さんは、広島造船所への出張を命じられました。当時、山口さんは29歳でした。
戦局はどんどんと悪化してきました。長崎にも空襲があったと聞き、奥さんとまだ生まれて間もない息子を長崎に残してきていた山口さんは、気が気じゃなかったと思います。
7月末になって、会社から山口さんに、長崎へ帰れとの命令が出ました。その帰任日は、何と8月7日でした。
中川:
8月7日ですか。原爆の翌日ですね。
稲塚:
もちろん、会社から長崎に帰れと命令があったときには、原爆のことなど、山口さんは考えてもいませんでしたが、今から思うと、運命的な感じがしますよね。
中川:
明日は家へ帰れるという日ですから、山口さんも、ウキウキした気持ちで朝を迎えたでしょうに。
稲塚:
そうでしょうね。そして、6日の朝8時15分、広島に原爆が投下されました。
山口さんは、ちょうど出勤の途中で、芋畑の中を歩いていたそうです。爆心地から約3キロほどのところでした。爆風に吹き飛ばされ、しばらく意識を失っていたようです。意識を取り戻すと、髪の毛はすべて燃え、顔も首筋もとろけていて、左腕も焦げていたそうです。その後、放射能の黒い雨にも当たっています。
中川:
すごいですね。そして、そんな状態で長崎へ帰ったわけですね。
稲塚:
原爆に焼かれた広島の街で、悲惨な光景を嫌というほど見せつけられたみたいですね。山口さんは20歳のときから短歌を詠んでいるんですが、そのときの様子を詠んだ句があります。“大広島燃え轟きし朝明けて川流れくる人間筏〟という句です。川面を埋めるように死体が流れている様子が、筏のように見えたんでしょうね。
中川:
映画の中でも、山口さんはその句を泣きながら読んでいましたね。その悲惨な光景が、60年以上たっても忘れられなかったんでしょうね。この句だけで、胸が詰まる思いがしますよ。
稲塚:
その後、山口さんは避難列車が出るということを聞かされました。それに乗れば長崎へ帰れます。それに乗らないと、最低、1ヶ月は帰れないと聞き、7日の朝、やけどでひどい状態だったと思いましたが、列車に乗り込みました。そして、8日の昼に長崎へ到着し、病院で治療を受けて、包帯だらけの姿で自宅に帰りました。仏壇にお参りしていると、母親が帰ってきて、「足はあるとね?」と聞いたそうです。幽霊かと思ったんでしょうね。
そして、翌9日です。熱でふらふらしていましたが、会社へ報告に行きました。責任感の強い人だったんですね。会社では、一発の爆弾で広島が壊滅したと言っても、だれも信用してくれなかったとおっしゃっていました。
ちょうど、山口さんが課長に報告しているころ、11時2分、広島で見た閃光を再び見たのです。その瞬間、山口さんは机の下へ潜り込んでいたそうです。
こうやって、わずか3日間で、2回も被爆するという大変な体験をしているんですね。上空のキノコ雲を見ながら、『まるであれに追いかけられているみたいだ』と思ったそうですよ。

(後略)

(2011年8月25日 東京日 比谷松本楼にて 構成 小原田泰久)

映画・DVDの紹介

上・「二重被爆」映画ポスター  下・「二重被爆」DVD 監督: 青木亮 販売元: アルドゥール DVD発売日: 2011/07/22 時間: 60 分
二重被爆の上映予定については、 ホームページ◎http://www.hibaku2.com/ 自主上映については、 「二重被爆」(59 分) 「二重被爆~語り部・山口彊の遺言」(70 分)と もに1回5万円。稲塚監督の講演は講師料5 万円(交通費別)。自主上映希望者は、タキシー ズまでご連絡ください。 FAX◎03-3485-2597

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