今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2016年12月 「坂本 光司」さん

坂本 光司(さかもと こうじ)さん

法政大学大学院政策創造研究科教授。人を大切にする経営学会会長。ほかに、経済産業省やJICAなど、国や自治体、団体の委員を務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、障がい者雇用論。著書は「日本で一番大切にしたい会社」シリーズ1~5(あさ出版)、「経営者の手帳」(あさ出版)、「さらば価格競争」(商業界)など多数。

『企業は社会のもの。最大の使命は、人を幸せにすること』

良くない会社は、社内の空気がギスギスしている

中川:
坂本先生の書かれた「日本でいちばん大切にしたい会社」という本はたくさんの人に読まれていて、今年は、パート5が出版されました。私も、この本を読ませていただきましたが、こんな会社があるんだとびっくりしましたし、会社のあり方に対する考え方が変わってきましたね。
会社の良し悪しというのは、数字で判断されがちですが、そうじゃないということがよくわかりました。
坂本:
ありがとうございます。私は、これまでに7500社以上の会社を、自分の足と目を使って調査してきました。いい会社か悪い会社かは、その会社へ行って、社内の空気を吸ってみればわかります。それは、小さな子どもでも感じられます。
すべての答えは現場にあると、私はいつも言っています。
中川:
会社の空気ですか。ギスギスしているところもあれば、和やかなところもあるでしょうからね。それは、大事なことだと思いますね。
坂本:
いくら取り繕っても、社員の顔つきや目つきや言葉遣いでわかりますね。長年、やっていますから。良くない会社は、だいたい、空気がギスギスしていますね。
学生たちでもわかります。この間、一緒にある会社を訪問したら、学生が、「この会社は空気が違う。娑婆の空気ではなく、天国の空気だ」と言っていました。
中川:
天国みたいな空気の会社だと、社員の人たちも、伸び伸びと働いているんでしょうね。先生の会社を評価する基準は、従来のものとはまったく違うわけですが、どうして先生は、会社のあり方について興味をもたれるようになったのですか?
坂本:
私の最初の仕事は、中小企業を回って、景況調査をする仕事でしたが、あちこちの会社を回っているうちに、中小企業がとても厳しい現実にさらされていることを知りました。
たとえば、「親会社からコストダウンを迫られて困っている」とか「今までやってきた仕事のラインを中国に移すと言われて、仕事がなくなってしまった」といったことに、経営者は頭を悩ませていました。いろいろと経営者の相談に乗ったり、相談に乗る限りは知識も必要ですから、専門家に話を聞いたり、業績のいい中小企業を訪ねて話を聞いたり、本を読んだりと、勉強をしているうちに、中小企業が抱える本質的な問題が見えてきて、会社にとって何が大切なのかということを考えるようになりました。
当時、普通の調査員はだいたい2社くらいしか回っていませんでしたが、私は、6〜8社くらいは訪問していましたね。それで、ずいぶんと煙たがられましたけどね。
中川:
企業というのは、業績を上げたり、ライバル企業を打ち負かしてシェアを大きくしようとすることが目的となりがちですが、先生はそうじゃないとおっしゃっていますね。
坂本:
企業はだれのものかと問われたら、私は、迷うことなく、社会みんなのものと言います。企業は、社会のシステムの中で機能しているし、社会の空気を吸っているし、ゴミを捨てれば処理をしてくれるし、仕入れ先もあるし、銀行はお金を貸してくれるし、お客さんもいる。社会とは切り離せません。ですから、社会のために役に立つのは当然じゃないですか。社会のために生きるのが企業です。
私の経営学から言えば、業績を上げるとかライバル企業に勝つというのは、結果としての現象でしかなくて、企業経営の最大、最高の使命は、人を幸せにすることですよ。人を幸せにするために、どういう手を打つか、それを考えるのが経営者の仕事です。
中川:
そう言われてみると、当たり前のことのように聞こえますが、実際には、企業の活動が人の幸せにつながっていないのが現状なのでしょうね。
坂本:
教え子が、日本で一番大きな会社について本を書くというので、コメントを求めてきました。「あの会社は、ホワイト企業ですか、ブラック企業ですか?」という質問を彼がしてきましたので、私はすぐに、「今やっていることを見ると、ブラックとしか言えない」と答えました。その会社は、好況だろうが不況だろうが、年に2回のコストダウンをしています。下請けを泣かせているわけです。幸せになりたい人を無視した経営をしているから、ブラックだと答えたのです。
自分の利益ばかりを考えた経営をしていると、大手企業を取り巻く環境は厳しくなってくると思いますよ。下請けが一斉に反旗を翻したときどうしますか。
現実、すでに、反旗を翻しているじゃないですか。廃業している中小企業が多発しています。そうすると、部品を作るところがなくなってしまいます。大企業が自分のところでやると言っても、なかなかできないことだし、できたとしても、従業員の賃金は高いですから、部品の原価もそれだけ上がってしまって国際競争ができなくなってしまいます。
だから、私は、仕入れ先を大切にしなさいと言っているんです。

<後略>

(2016年9月30日 東京・新宿区の法政大学にて 構成/小原田泰久)

著書の紹介

「日本で一番大切にしたい会社」 坂本 光司 著 (あさ出版)

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