今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2016年2月 「中澤 宗幸」さん

中澤 宗幸(なかざわ むねゆき)さん

1940年兵庫県生まれ。8歳のときに、父親からヴァイオリン作りを教えてもらったことがきっかけでヴァイオリンに興味をもつ。ヨーロッパでヴァイオリンの作り方や修復の技術を本格的に学び、1980年に東京に工房を開く。現在、東京、長野県上田市、イタリアのクレモナに工房をもち、名器の修復や鑑定、調整を手がけている。2015年「地球交響曲第八番」に出演。著書に「ストラディバリウスの真実と嘘」(世界文化社)「いのちのヴァイオリン」(ポプラ社)などがある。

『木には命がある。ヴァイオリンにも魂があり意志がある』

どん底の生活のとき、晩ごはんのあと、父がヴァイオリンを弾いてくれた

中川:
中澤さんは、「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」の最新作、第八番に出演されていますね。私どもは、この映画の龍村仁監督とはとても縁が深く、いろいろとお世話になっています。監督の弟さんの龍村修先生がヨガをやっておられて、私どもが毎月開催している真氣光研修講座の講師をお願いしています。そのご縁もあって、監督も、この対談に何度か出てくださいました。
中澤:
そうですか。私は、監督からこの映画の話をいただき、今回の作品も含めて、どんな方々が出演されているのかを知って、とても私なんかと、最初はご辞退しました。でも、出させてもらって、本当に良かったと感謝しています。そういう意味で、2015年というのは、私にとっては、特別な年でした。
縁と言えば、面白いことに、この映画のもとになった「ガイア理論」の創始者で、映画にも出演している(第四番)ジェームズ・ラブロック博士には、20数年前にお会いしたことがあったのです。そのときにお聞きした、博士のガイア理論には感銘を受けました。実生活では、そのことを意識することはなかったのですが、龍村監督の映画に出ることになって、改めて、博士の理論に感動したときのことを思い出しました。不思議なご縁だなと思いますね。
中川:
そうでしたか。中澤さんは、確か兵庫県にお生まれで、ヴァイオリンとかかわったのはお父さんの影響だそうですね。
中澤:
兵庫県の真ん中あたりですね。生野(いくの)鉱山のあったあたりです。山の中です。
父は、山林業を営んでいました。植林をし、下草を刈り、間伐をし、伐採、製材までやっていました。ですから、私は、木とともに育ったようなものです。
父は、特別な勉強をしたわけではなかったでしょうが、自然の中で暮らして、そこでいろいろなことを学んだのではないでしょうか。父の話からは、とても大きな影響を受けましたね。
私は、8人兄弟の5番目ですが、上に4人の姉がいて、父にしてみれば、待ちに待った男の子だったので、とてもかわいがってくれました。
幼いころは、割合、豊かに過ごせていました。しかし、私が8歳くらいのときに、知人の保証人になって、山林も田畑も家も、すべて失い、バラックみたいなところでみじめに暮らさなければならなくなりました。
それまでの我が家は、お客さんがいつも来ていましたが、貧しくなったら、とたんに人が散っていきました。それが、父にとってはとてもショックで、絶望して一家心中をしようとまで、思いつめたようです。
そんなどん底の時期に、父が、いつも晩ご飯を食べたあとに、ヴァイオリンを弾いてくれました。どこで手に入れたのでしょうね。商売で、神戸や大阪へよく行っていましたから、そこで譲ってもらったのかもしれませんね。
中川:
つらい生活の中で、ヴァイオリンの音が希望の光になったわけですね。
中澤:
そうだったですね。上手だったかどうかはわかりません。曲になってなかったかもしれません。でも、私にとって、あんなにもすばらしい演奏はなかったですよ。今でも、ずっと記憶に残っています。
父は、ヴァイオリンを弾いたあと、いろいろと話をしてくれました。
印象にのこっている3つの言葉があります。
一つ目は、『宗幸なあ、お金は大事にしろよ。でも、お金に動かされるような人間になったらあかんでえ』。二つ目は、『どんなことがあっても、音楽はもってないとあかんぞ』。そして、三つ目が『生きていることは美しいことなんだぞ』です。
お金で苦労し、音楽に救われた父です。自分が自殺まで考えたからこそ生きることのすばらしさを感じ、それを子どもに伝えたかったのだろうと思いますね。
父親の声が、今でも聞こえてきますよ。
お金とか土地といった財産はのこさなかったけど、金銭に代えられない宝物をのこしてくれました。

<後略>

(2015年12月22日 東京都渋谷区の日本ヴァイオリンにて 構成/小原田泰久)

著書の紹介

「いのちのヴァイオリン」 中澤宗幸 著(ポプラ社)

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