今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2013年3月 「瀬戸 謙介」さん

瀬戸 謙介(せと けんすけ)さん

昭和21年父親の赴任先である旧満州で生まれる。獨協大学卒業。14歳で空手を初め、現在社団法人空手協会7段。A級指導員、A級審査員、A級審判員、空手東京都本部副本部長、同技術局長などを務める。平成18年第6回空手協会熟練者全国空手道選手権大会形の部で優勝。著書に『子供が喜ぶ「論語」』『子供が育つ論語』(ともに致知出版)などがある。

『論語や武士道を学んで、日本人の誇りを取り戻そう』

ご先祖様の名を汚さないような生き方をするにはどうしたらいいか

中川:
先生の『子供が育つ論語』を読ませていただきましたが、考えてみれば、論語に触れるのは、高校時代の漢文以来じゃないかと思います。人間としてどう生きればいいか、とても大事なことが書かれていると、改めて思いましたが、論語については、学校でも、私のころのように、漢文でちょっと勉強するくらいなんでしょうね。
瀬戸:
このごろは、ほとんどやってないかもしれませんね。笑い話ですが、大学を出た若者に論語を見せたところ、ルビが振ってないものでしたが、「子曰わく」を見て、「先生、コーヒーわく」ってどういう意味ですかって質問してきましたから(笑)。きっと習ってなかったんでしょうね。
中川:
そうですか。そう読めないこともないですからね(笑)。もっとも、私たちの世代も、内容をよく知っているわけではないですから、彼らを笑えませんけどね。
ところで、先生は空手を教えながら、論語も教えているということですが、これは何か理由があるのですか?
瀬戸:
空手の練習のあとに論語の素読をしています。今月の論語というのを決めて、1ヶ月、練習が終わると毎回やって、最後の日曜日に1時間半かけてその論語を座学で勉強するようにしています。
私の場合、空手を教えていますが、空手が上達することだけを目的としてやっているわけではありません。あくまでも、空手は自分を磨く手段です。もし空手よりももっと自分を磨く手段としていい方法があれば、そちらをやってもいいと思っています。論語も自分を磨く方法のひとつだと考えています。論語というよりも、私は武士道に興味があって、武士道を理解するには論語は必要ですから、そういう意味で論語を取り入れているわけです。子どもたちには、論語は暗記しやすいし、わかりやすいということもあります。先ほど言った、月に一度の1時間半の勉強のときも、論語を40分やって、残りは武士道という割合で教えています。
中川:
武士道に興味をお持ちなんですね。昔からですか。
瀬戸:
本格的に武士道を研究しだしたのは大学時代からです。子どものころ両親から武士道と言った言葉はしょっちゅう聞かされていましたので、自然と興味を持つようになっていました。父は、全ての論語を暗記していましたので、何か子どもに言い聞かせることがあると、論語を持ち出していましたから、自然に武士道とか論語とか、私の中に染み込んでいたのだと思います。
中川:
体を動かす空手と精神性や生き方を説く論語や武士道と、とてもいい組み合わせになっていますね。
武士道というと、日本独自のもので、ヨーロッパには騎士道とかありますが、かなり違うものなのですか?
瀬戸:
武士道の素晴らしさ、日本人の感性の素晴らしさは、激しい戦場において、命のやり取りの中から無常感を感じ取ったところにあります。生死に直面し仏教の死生観を受け入れ、儒教の人倫(注)を学び、己を磨き、苦悩の果てについにその壁を破り、勝負から離れ生死を超越した域に達したことです。騎士道や外国の武術と呼ばれるものでこの域にまで達したものは見当たりません。武士道とは表面的美しさを求めるのではなく「心の美学」を追求したもので、これは日本独特の哲学です。
(注)
人倫…君臣・兄弟・夫婦などの人間関係を保持していくための道徳。人としての道
武士はとても名を惜しみました。名を惜しむというのは、自分の名前を汚さないということだけではなくて、ご先祖様の顔に泥を塗らないということまで含んでいます。いつの時代も、日本人には、自分が生きているということはご先祖様のおかげだという意識があります。縦の関係を意識して生きている民族です。ご先祖様の名を汚さないためにどういう生き方をすればいいのかというのを追求しているのが武士道なんですね。
『菊と刀』という有名な本がありますが、その中で、日本は恥の文化だと書かれています。その本では、どこか、恥の文化を見下したようなニュアンスを感じるのですが、恥の文化は重要だと、私は思っています。恥ずかしいという感覚がなくなればなんでもできてしまいます。これをやったら恥ずかしいと思うからこそ、身を正して生きるんじゃないですか。時には命に代えてでも名誉を守る。それが武士の生き方です。
中川:
確かに、日本人はご先祖様を意識して生きていますね。お盆とかお彼岸にはきちんとお墓参りをしてご先祖様にごあいさつしますからね。
瀬戸:
お墓と言えば、去年、ドイツからお客さんが来ましてね。ちょうどお彼岸だったのでお墓参りに連れて行きました。なんでお墓に行かないといけないのだと変な顔をしていましたけど、お墓に行って、掃除をして、わいわいと賑やかにお墓参りをしたら、驚いていました。ドイツでは、しんみりとして暗くて、日本のようににぎやかなお墓参りなんかしないって言うんですね。まるで、ご先祖様と対話しているようだって感心していましたよ。

(後略)

(2013年1月8日 東京日比谷松本楼にて 構成 小原田泰久)

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