今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2013年9月 「吉澤 誠」さん

吉澤 誠(よしざわ まこと)さん

明治大学卒業後、大学院に進学し国際政治を学ぶ。国際交流のための本や地球環境問題を考える本の出版に携わるなど、多数の本の編集を手がける。世界各国をまわり、一貫して社会貢献を目的とした活動を続けている。著書に、イラク人の友達との共著『旅の指さし会話帳 イラク』がある。絵本『カーくんと森のなかまたち』は全国各地の小中学校や幼稚園、保育園等で、心の健康のための授業に取り入れられており、児童教育評論家、絵本作家として、講演や読み聞かせもしている。株式会社 エムケイプランニング 顧問、社団法人 国際文化芸術交流協会 理事、特定非営利活動法人日本バングラデシュ交流基金(JBCF)監事などを務める。

『絵本の読み聞かせを通して、命の尊さ、支え合いの大切さを伝える』

後輩が自殺し、力になってあげられなかった自分を責めた

中川:
はじめまして。「カーくんと森のなかまたち」という絵本を拝見しました。自分みたいにダメな鳥はいないと落ち込んでしまったホシガラスのカーくんが主人公で、彼は、こんな自分なんか死んでしまった方がいいとまで思い詰めてしまうのですが、まわりの仲間たちに支えられて、自分の良さやみんなの優しさに気づいて元気を取り戻して行くという物語ですね。吉澤さんは、子どもたちの自殺を防ぐために、小中学校や幼稚園、保育園等で、この絵本の読み聞かせをやっておられるそうですね。
吉澤:
ありがとうございます。あの絵本は、画家で絵本作家の夢むら丘実み果か先生が絵を描かれて、私が文を担当しました。今日は、夢ら丘先生も一緒におうかがいするつもりだったのですが、どうしても都合がつかず、失礼しました。
WHO(世界保健機関)の報告によりますと、自殺の原因のほぼ100%に精神疾患がかかわっているそうです。そのうちのかなりの割合をうつ病が占めているということです。そして、うつ病になる前には、必ずうつ状態があります。このうつ状態のときに何か対策を講じておけば、うつ病も少なくなりますし、自殺も減るはずです。この絵本を作り、読み聞かせをしているのは、うつ状態を何とかできないだろうかという思いがあるからです。
専門家としては、「日本いのちの電話連盟」の齊藤友紀雄理事(内閣府自殺対策推進会議委員)と厚生労働省科学研究班の主任研究者で元東海大学医学部精神科の保坂隆教授(現・聖路加国際病院精神腫瘍科医長)に協力をいただきました。「いのちの授業」に取り組まれている聖路加国際病院の日野原重明理事長にも、推薦文もいただきました。
出版したのは平成19年9月10日。「世界自殺予防デー」でした。
中川:
自殺を防ぎたいと思うようになったきっかけというのはあるのですか。
吉澤:
そうですね。夢ら丘先生も、親しい友人が自ら命を断つという悲しい体験をお持ちです。それに、子どものころからぜんそくがあって、学校も休みがちで、いじめにもあったそうです。また、2002年1月に、自宅近くの交差点で自転車に乗っていて、車にはねられました。100%、相手の過失でした。その後遺症で右手がしびれるようになって、絵も描けないし、家事もできないような状態になってしまいました。すごくショックで、重いうつ病になってしまいました。2年ほどリハビリ生活を送ったようですが、「死んでしまいたい」という気持ちになることもたびたびだったとおっしゃっていました。あるとき、当時小学校3年生だった娘さんに、「死んじゃいたい」と漏らしたら、娘さんは「私は、ママがいるだけでうれしいよ」と言ってくれたそうです。
そういった体験がありますから、自殺を防ぐという活動には、とても思い入れをお持ちです。
中川:
2年前に、滋賀県大津市で中学生がいじめを苦にして自殺するというショッキングな事件があって、さらに最近でも名古屋で同じようなことがありました。
「命を大切に!」といくら口で言っても、なかなか子どもたちの心の中には響いていきません。でも、この物語を作られた吉澤さんたちの思いは、氣として子どもたちにも伝わっていっているのではないでしょうか。だから、子どもたちもいろいろなことを感じてくれるのだと思います。
吉澤:
先ほど、14年連続して自殺者が3万人を超えたというお話をしましたが、危惧すべきことは、10代、20代、30代の死因の1位が自殺だということです。これは、何とかしないといけないでしょうね。
やっと日本でも、2~3年前から、自殺予防教育に力を入れるようになってきました。欧米では、1970年代に自殺が増えたときに、自殺予防教育に力を入れ、中長期的に考えれば、必ず減っていくということがわかっています。我が国では、性教育と同じようにタブー視されていて、なかなか取り入れられませんでした。寝た子を起こすと思われてきました。性教育の場合は、エイズの問題もあって、知識として知っておいた方が対処できるということで、真剣に取り組むようになってきました。自殺の予防教育も、同様に寝た子を起こすのではと、危惧されていましたが、小学生の10人に1人、中学生の4人に1人が「うつ状態」という調査結果もあって、そんなことも言っていられなくなっています。自殺のこと、自殺につながるうつ病やうつ状態のことを、もっと知っておくべきだという流れになりつつありますね。

(後略)

(2013年7月16日 東京日比谷松本楼蘭の間にて 構成 小原田泰久)

DVDの紹介

『カーくんと森のなかまたち』読み聞かせDVD(ワイズ・アウル社)¥2,800(税別)体育館等でも映像授業が出来ればと教師や人権擁護委員からの要望で今年4月に女優中井貴恵さんのナレーション入りのDVDが完成し、読み聞かせに活用されている。鳥のさえずりや川のせせらぎ等も入っており、絵本の付録同様、DVD付録には、「いのちの電話」「チャイルドライン」等の電話番号の他、法務省の「子どもの人権110番」「子どもの人権SOSミニレター」「SOS-eメール」等がリスト掲載されている。絵本、DVDと指導案があれば、簡単に効果的な「心の健康ための教育」が出来るようになったと、現場の先生方に喜ばれている。幼児用と小中学校用の道徳授業での活用方法を記した指導案は、夢ら丘実果さんのHPからダウンロードできる。http://mika-muraoka.com

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