(31) 売り言葉に買い言葉

先日の夕方のことです。
妻と出かけるときには少々時間がかかるので、ついつい私はイライラモードになるのですが、その時はいつもに増してゆっくり用意をしているように見えたのです。
あまり時間がないのに化粧を始めて、ずいぶん時間がかかっているようです。
ついつい私は「そんなに念入りにやっても、誰も見ていないよ」と、嫌な言葉を口から出してしまいました。
妻の返答は笑いながら「分かってる!」とのことでした。
私は言ってしまってから、言っても言わなくても何ら事態は変わるはずがないのに、敢えて言ってしまったことを反省したのです。
これが10年も前のことでしたら、売り言葉に買い言葉で、次々とお互いに嫌な言葉の応酬が始まり、喧嘩しながら出かけなければならなかったでしょう。
しかし少しは二人とも成長したのか、はたまた慣れっこになったのか、その後も気まずい雰囲気にはならず、事無きを得たのでした。
 「売り言葉に買い言葉」とはよく言ったものだと関心してしまいます。
ことわざ辞典によると『異表現は狂言「入間川」のものだが、後ろが「買う言葉」と普通の表現になっている点から、当初は単なる物を売り買いする時の発語であったものが、売り手の口の利き方しだいで買い手を刺激することになり、買い手がそれに反発する、そんな言葉のあれこれを含めて言うようになったものであろうか』とあります。
 これは氣というものの特性をよくとらえた話です。
氣とは見えない波のように伝わる性質のエネルギーで、言葉をはじめ態度や雰囲気にも氣があります。
そして自分の出している氣に応じて、周りの氣が反応するわけです。
私がつい口を滑らせることで、妻が反発した言葉を発し、それを受けてさらに私がもっと嫌なことを言うと、どんどんマイナスの氣が増幅していき大喧嘩になるのでしょう。
そこまで行かなくても、こちらの気持次第で相手の反応が変わるという似たようなことは、私たちはいろいろなところで経験しています。
ついつい相手の悪いところばかりに目が行き、自分が良くない氣を出していたからでは?という、自分を省みることが少なくなりがちです。
こちらからはいつもプラスの氣を出せるようにしたいものです。
また周りの人の反応から、そうできるように工夫することは、自分を良い方向に変えてくれることなのです。
そういう意味では、たとえ人が見ていなくても綺麗にしておく、つまり良い氣を出すためには「化粧は念入りにする」べきかもしれません。(笑)
「分かってる」と言いながら丹念に化粧を続けた妻に、また頭が下がります。
(中川 雅仁)
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