09月「 藤村 記一郎」さん
藤村 記一郎(ふじむら・きいちろう)さん
作曲家。名古屋大学工学部卒業。元名古屋市立高校教諭。愛知子どもの幸せと平和を願う合唱団ほか多くの合唱団で指揮。日本のうたごえ全国協議会創作部会責任者、全国教育のうたごえ協議会議長などを務める。「ぞうれっしゃがやってきた」をはじめとする世代を超えて創る合唱ミュージカル作品などの創作上演に力を入れている。
『広がれ!子どもたちの幸せと平和を願う合唱&ミュージカル 』
たまたま本棚にあった絵本が 題材になった合唱曲
- 中川:
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地域の合唱団で活動しているうちのスタッフから、平和のこと、原発問題などを合唱曲やミュージカルにされている作曲家の先生がおられると聞き、とても興味をもちました。
先生の代表作である「ぞうれっしゃがやってきた」という合唱曲を作られたのが1986年ですね。うちの会社ができたのと同じ年です。
この曲がきっかけで全国にたくさんの合唱団が作られ、40年後の今も、各地で歌われています。平和への願いが込められたすばらしい曲ですね。どういうきっかけで創られたのですか。 - 藤村:
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1986年というと、チェルノブイリ原発で大事故があった年です。原発の怖さを思い知らされました。原発問題を語る上でも忘れてはいけない年ですね。
私はその10年前、1976年から29年間、名古屋の高校の数学教師をしていました。小さいころから音楽が好きで、仕事をしながら音楽がやっていければいいなというくらいの気持ちで教師になりました。
最初は高校を中心とした教職員の合唱団をつくりました。1984年に愛知県の管理主義教育をテーマに「青春は嵐の中に」という曲を作り、教員だけでなく、生徒や父母、市民、教師を目指す学生たちと一緒に、子どもたちの幸せと平和を願う気持ちを歌で伝えていこうという活動を始めました。
その活動を機に、「愛知子どもの幸せと平和を願う合唱団」という 名 前 に 変 え ま し た。そ れ が1985年です。その年の9月、子どもの幸せと平和を願うにふさわしい新しい曲を練っていたとき、家の本棚で一冊の絵本を見つけました。以前、妻が購入していた「ぞうれっしゃがやってきた」でした。私はすぐに読み、「これだ!」と思って、合唱団のメンバーに紹介しました。全員、この話に感激して、これを合唱曲にしようと話がまとまりました。 - 中川:
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太平洋戦争のとき、全国の動物園で動物たちが殺処分されました。名古屋の東山動物園では園長らが必死の思いで守ったことで、2頭の象が生き延びることができました。1949年、終戦後の厳しい時代、楽しみの少ない子どもたちに象を見せてあげようと特別列車の「ぞうれっしゃ」が走ったという実話をもとに書かれた絵本ですね。
私も読ませてもらいましたが、子どもたちの幸せと平和というテーマではぴったりの物語だと思いました。それが本棚にあったというのも不思議な縁ですね。 - 藤村:
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絵本が本棚にあった偶然もそうですが、とにかく「ぞうれっしゃがやってきた」はさまざまな偶然が後押ししてくれた気がします。
私が合唱団のみんなに話をしたのが1985年9月8日でした。その翌日の9日、朝日新聞に東山動物園の北王英一元園長のインタビュー記事が大きく出ました。びっくりしましたよ。
1986年は国連が国際平和年と定めた年でもあり、さらには東山動物園が開園したのが1937年で、翌年には開園50周年を迎えようとしていました。今こそ、この話を合唱して広げるときだと思いましたね。 - 中川:
- すごいタイミングですね。まさに何かの力が応援してくれたとしか思えません。
- 藤村:
- 1曲もできてないうちからマスコミの取材が入ってきました。3月30日が本番でした。1月7日の時点で完成していたのが10曲中4曲。練習をしながら曲を作り、10曲目ができたのは一週間前でした
- 中川:
- 綱渡りですね。今でも10曲なのですか。
- 藤村:
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今は11曲です。11曲目ができたのが1988年。東京の武道館で毎年やっている音楽祭、日本のうたごえ祭典で歌うことになりました。そのときに、名古屋だけの話みたいになっているけれども、東京の上野動物園も関係あるのではないか。東京の子どもたちが象を貸してくださいと東山動物園を訪ねてきたことがぞうれっしゃが走るきっかけだったし、東京の子どもた
ちがすごく話し合いをしてみんなで決議して代表が名古屋にくるという物語もあったわけで、その話も入れるべきだと注文がつきました。それであとから追加しました。 - 中川:
- いろいろな年齢層が集まっていますから、練習も大変でしょう。
- 藤村:
- 地域によって違いますが、小さい子だと2~3歳、上は80代ですかね。この間の東京で歌った人は90代でしたね。この曲は子どもたちがいないと成立しません。それに、いつも大人と子どもが一緒に歌うわけではなくて、あるところは子どもだけ、別のところは大人だけ、一緒のところもあって、大人だけの練習も子どもだけの練習も一緒の練習もしないといけないんです。だから、大変と言えば大変です。みんながあきないようにするのも、 私たちの大事な仕事です(笑)。
- 中川:
- 子どもも大人も一緒にというのはあまりないんでしょうね。
- 藤村:
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普通の合唱団だと、大人の合唱団、子どもの合唱団と別々になっている場合がほとんどですね。大人も男声合唱団とか女声合唱団とか混声合唱団に細かく分けられていて、一緒にやろうというのはあまりないでしょうね。この世の中というのは、お父さんがいてお母さんがいて子どもがいて、おじいちゃん、おばあちゃん、近所の人、先生・・・いろいろな人がいて成り立っていますよね。大人だけ子どもだけでは物語にならないじゃないですか。
自然の世の中の姿が合唱の中にあるといいなと思うんですね。 - 中川:
- 家族とか平和とか、高齢者から子どもまでみんなで歌うと、次の世代につながっていきますよね。
- 藤村:
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創ったときはそんなところまで考えませんでしたが、この間、40年目の集いがあって、40年間を振り返って何ができてこれからどうしていくべきかというシンポジウムをしました。シンポジストの一人は、子どものころにぞうれっしゃの合唱団で歌い、今は自分の子どもと参加しているとうれしそうに話してくれました。
その話を聞いて、そういうことがこの歌の中ではできていくことが改めてわかりました。大人と子どもが一緒にやっているからこそできることです。特に家族はずっと一緒に暮らしていて、家でも一緒に練習したりするでしょう。合唱団の練習は週一回でも、家族で参加している人は毎日練習しています。
歌の練習だけではなくて、戦争中のことだとか象がどう生き延びたか、家で話題になることもあると思います。
それに、たいてい歌は子どもたちの方が先に上手になるんです(笑)。子どもが親に教えてあげるという時間もあるはずです。そうした家族の楽しい時間の中で歴史を伝えたり学んだりすることができるんですね。 - 中川:
- 想像するだけで楽しそうですね。家族の関係が密接になり、家庭という場のエネルギーがとても高まると思います。
- 藤村:
- それと合唱団には必ずプロの人も加わります。それがまた楽しいわけですよ。プロの人は初心者の方と共演するのがとても新鮮に感じられたり、素人の方はプロの人といい舞台が作れたりするとうれしくてたまらないわけですよ。
- 中川:
- 全国各地で大人も子どももプロも素人も混じり合って、楽しく歌っているわけですね。最初の目論見通りにどんどん広がっていますね。
- 藤村:
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学校でも学芸会や文化祭、学習発表会で歌ってくれているようです。コンサートなら件数を把握できますが、学校行事だとどれだけの学校でやっているかなんてわかりません。
来年の7月に羽咋市で全国教育のうたごえ祭典というのを開こうということで準備しています。羽咋市というのはトキの放鳥で有名になったところです。
羽咋市にある瑞穂小学校のホームページを見ていたら、そこに「伝統のぞうれっしゃ」と書いてありました。代々歌い続けられているそうなのです。10年間も。ぜんぜん知りませんでした。
うたごえ祭典にも当時の担当の先生が加わってくれることになりました。
大分県の由布院小学校もすごくて、毎年、「ぞうれっしゃがやってきた」を、全校の行事として歌ってくれています。
11曲あるので学年ごとに担当を決めて、 先生や父母も加わって、30何年間か続けてくれています。コロナで一度とぎれたみたいですが、コロナ騒ぎ後に再開してくださっています。
学校というのは、先生も代わっていくし、いくら前にいいことをやっても続かないことが多いと思います。30数年も続いているというのですから、頭が下がります。 - 中川:
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知らないところで広がっているというのもうれしい話ですね。
探せば「ぞうれっしゃがやってきた」が歌い継がれているところはたくさん見つかるのではないですか。 - 藤村:
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国際交流もしていまして、2001年にはタイへ行って、小さな村でホームステイして、近くの広場のステージで歌ったら、近隣の村からもたくさんの人が集まってくれました。バンコクでもコンサートをしました。
韓国へ行き、インドへ行き、2007年には中国の南京にも行きました。チェコにも行きました。
南京には戦時中のこともあって、日本にいい印象をもっていない人がたくさんいます。ですから、最初は反対されましたが、一番応援してくれたのが、通称、南京虐殺記念館の館長さんで、「日本の中にもいろいろな人がいる。平和を願う民間交流は必要だ」と強く言ってくださって実現しました。感動しました。(続きはハイゲンキマガジンで・・)
K Ì PLACE にて 構成/小原田泰久
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