今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2021年5月「二木 謙一」さん

二木 謙一

二木 謙一(ふたき·けんいち)さん

1940年東京生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程修了。『中世武家儀礼の研究』でサントリー学芸賞を受賞。文学博士。國學院大學教授·文学部長、豊島岡女子学園中学高等学校校長·理事長を歴任。現在は、國學院大學名誉教授。NHK大河ドラマの風俗·時代考証は14作品を担当。著書は『関ヶ原合戦』『大坂の陣』(中公新書)『徳川家康』(ちくま新書)など多数。

『戦国武将から生き方の 知恵·極意を学ぶ』

戦国時代は実力社会。現代にも通じるものが多い

中川:
 二木先生は國學院大學の教授を長く務めておられました。日本の歴史がご専門で、「有職故実」をテーマにされていたとお聞きしましたが、有職故実というのはどういうものなのでしょう。
二木:
 朝廷・公家や武家の制度・先例などの研究ですが、わかりやすく言えば、衣食住や儀式などのいわゆる時代考証ですね。つまり、その時代の服装、鎧や兜といった戦で使う道具の形、しきたりや生活作法、武家や庶民がどういう暮らしをしていたかなど風俗を研究する仕事をしていました。
中川:
 それでNHKの大河ドラマでも時代考証を担当されていたんですね。
 私は歴史が大好きで、大河ドラマを楽しみにしていますが、時代考証というのはとても大切な役割かと思います。大河ドラマで印象に残っているエピソードなどありましたら、聞かせていただけますか。
二木:
 大河ドラマでは14作品で時代風俗考証を担当しました。毎週の定例会議での台本検討のほか、國學院大學は渋谷にあってNHKには近いので儀式などのリハーサルにもよく呼び出されましたよ(笑)。
 翌年の作品と2作同時に進んでいることもあって、けっこう忙しかったですね。
 それぞれの時代にふさわしい場面を作っていかなければならんし、しかも現代人にも理解できるようにしないといけないので、いろいろ苦労しました。
 衣装も数がないので、公家の装束などは場面によってはたらい回しをすることもありました。
 時代によって武器や兜も違います。戦国時代に平安時代の武具を使うのは、古いのを使っていた可能性もあるのでいいのですが、逆はできません。鎌倉時代に戦国時代の武具は使えませんから。
 戦国時代、男はあぐらをかいていました。でも、若い俳優さんの中には子どものころから椅子で暮らしているのであぐらをかけない人もいて、これには驚きましたね。
 当時の武士は正座をしていたと思っている方が多いのですが、正座をするようになったのは畳を敷き詰めるようになった江戸時代の中期からです。
 女性は立てひざでした。絵巻物にはそう描かれています。でも、立てひざだと鉄火場の女みたいだと評判が悪くてやりませんでした。昨年の『麒麟がくる』では思い切って立てひざ姿を取り入れていました。今後はどうしていくのでしょう。
中川:
 私がとても印象的だったのは、2012年に放送された「平清盛」でした。先生が時代考証をされていたと思います。清盛がボロボロの状態から這い上がってくる姿に感動したのですが、平氏はもっと豊かだったという話も聞いたりするのですが。
二木:
 あれは東日本大震災の影響がありました。地震と津波と原発事故で東北を中心に日本中が大混乱になった年の収録でした。節電で町も暗くなっているし、NHKでの打ち合わせも薄暗い中でやっていました。
 みなさん不安で、どこに希望を見出せばいいかわかりません。そういう環境にあって、当時の野球界と同じように、ドラマを作るスタッフたちにも、「見せようドラマの底力」といった雰囲気がありました。
 それで廃墟の中からたくましく立ち上がっていく清盛になったのです。
 宋と貿易をしていて平氏は金持ちでした。だけど、つらさを乗り越えたという話の方が世の中のためになるのではということでああいうストーリーになったようです。
 ドラマ作りと学問とは違いますね。
中川:
 そういうことだったんですね。あのドラマで元気づけられた人も多かったと思います。
先生は清盛よりももっと後の戦国時代の研究に力を入れておられますが、戦国時代の魅力というのはどういうところにあるのでしょうか。
二木:
 戦国時代は現代社会に通じるものがあって、お手本となることが多いと思います。まずは実力社会だったということです。戦国時代より前は、身分が定められていました。下級武士の子は、どんなにがんばっても有能であっても、下級武士のままです。
 しかし、戦国時代は違いました。だれもがよく知っているように、豊臣秀吉は貧しい農家の出身です。それが生まれに関係なく実力次第でどんどん上へ登っていくことができました。現代人も同じように実力社会です。常に生と死との極限状態にあった戦国武将の生き方はお手本になるのではないでしょうか。
中川:
 英雄もたくさん登場しますしね。
二木:
 全国にすごい武将がたくさんいました。上洛戦は甲子園の地区代表のようなもので、甲斐の武田信玄、越後の上杉謙信、駿河・遠江の今川義元、尾張の織田信長らそうそうたる面々が全国制覇に向けて戦い、織田信長が上洛に成功して優勝したみたいな、そんな図式が描けます。

<後略>

2021年2月5日 東京都練馬区の二木先生のご自宅にて 構成/小原田泰久

著書の紹介

「戦国武将に学ぶ究極のマネジメント」 二木 謙一 (著) 中央公論新社

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