今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2023年9月「舘岡 康雄」さん

舘岡 康雄(たておか・やすを)さん

東京都生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業。日産自動車中央研究所材料研究所に入社し、研究開発部門、生産技術部門などをへて、人事部門で日産ウェイの確立と伝承を推進。その後、静岡大学大学院教授を務める。現在、一般社団法人SHIENアカデミー代表理事。1996年からSHIENに関するワークショップや講演活動を国内外で行っている。主な著書『利他性の経済学:支援が必要となる時代へ』(新曜社)『世界を変えるSHIEN学』(フィルムアート社)。博士(学術)。

『競争の時代は終わった。力を引き出し合うS H I E N の時代へ』

SHIEN学は人間の内側を解放する科学。意識の科学、間の科学

中川:
舘岡先生のお書きになった『世界を変えるSHIEN学』(フィルムアート社)を読ませていただきました。私ども真氣光で言っていることと共通する部分がたくさんあって、ぜひお会いしてお話をうかがいたいと思いました。今日はよろしくお願いします。
舘岡:
ありがとうございます。ずいぶんと前に対談のオファーをいただいていたのにお返事ができずに失礼しました。真氣光のこと、私なりに調べさせていただきました。SHIEN学と似たところがたくさんあって、私も中川会長にお会いできるのを楽しみにしていました。
中川:
先生は大手自動車会社のN社に入社されて、研究開発、生産技術、購買、品質保証、人事といった部門で働いてこられました。N社が経営的に危機を迎え、回復していくという激動の中で、これからの時代は競争ではなく、お互いの力を引き出し合うことが大切だということにお気づきになり、それをSHIEN学ということで学問、科学として提唱されています。 私たちは今、大きなパラダイムシフトの中で、生きているわけですね。
舘岡:
これまでの社会は、お金や物といった目に見えるものが大事にされてきました。これからの時代は、見えないもの、お金に代わるものが大切になると、2006年に『利他性の経済学:支援が必然となる時代へ』(新曜社)という本に書きました。 今、あの本に書いたことに時代が追いついてきています。 これまでの学問は外側ばかりを対象にしてきました。私が提唱しているSHIEN学は人間の内側を見る科学です。意識の科学とか間の科学という言い方もしています。
中川:
間の科学ですか。
舘岡:
現代社会のベースとなってきた西洋科学は一個が最小単位で、一つの会社と別の会社が競争しているとか、一つの国と別の国が争っているというモデルです。 SHIEN学では「間」にこそ実体があると考えます。最小単位は一個一個ではなく「対」なんですね。お互いにしてあげたりしてもらったりするのが自然の姿です。会社でも、社長がいて管理職がいて従業員がいますが、それぞれが個として別々にあるのではなくて、その間に関係性、間があって、してもらったりしてあげたりしているわけです。 私は莫大な借金を抱えて倒産しそうになっているN社がダイナミックな改革によって奇跡的に復活するのを目の当たりにしました。その根底には、大きなパラダイムシフトがありました。その経験がSHIEN学のもとになっています。
中川:
「支援学」ではなく「S H IEN学」と表現しているのはどうしてでしょうか。
舘岡:
「支援」は「難民支援」や「被災地支援」のように、上位者が下位者に、力のあるものがないものに施すという概念です。「SHIEN」は、自分を犠牲にし、人を助ける一方的な「利他」とは異なり「寄り添い」を軸に重なり、互いに行動を起こすことを指します。 重なりのなかったところに重なりをつくり、「させる/させられる」ではなく「してもらう/してあげる」を、双方向に交換する行為のことで、新たな時代に必要される在り方だと考えていただければと思います。それがSHIENということです。
中川:
一方的に片方だけが助けるということはありませんからね。被災地で困っている人を助けるという形であっても、助ける人もいろいろ学んでいることがあったり、感謝されたり、さまざまな感動や喜びをもらったりするものです。支援は一方通行のようなイメージがありますが、SHIENは双方向ということですね。
舘岡:
おっしゃる通りです。私は、N社の復活劇の最中、大学院へ通って、ある研究をまとめていました。社会は「リザルトパラダイム」から「プロセスパラダイム」、「コーズパラダイム」へとシフトしていくというものです。それがSHIEN学の基礎になっています。パラダイムというのは、その時代に共通するものの見方や考え方のことです。 これまではN社を含めた企業社会というのは、常に競争でした。トップダウン方式の働き方で「やらせる/やらせられる」の一方向の考え方です。私は、それを「リザルトパラダイム」、略して「リザパラ」と名付けました。同期はライバルで、他部門も敵だと感じるような関係です。しかし、それでは会社はN社のように行き詰まってしまいます。 本当にいい関係というのは、お互いがお互いの力を必要とし、お互いを活かし合う働き方ができることです。仲間が自分を認め、自分も仲間の力を引き出す。会社が自分を大切にし、自分も納得して心から納得して会社に貢献できるような状態です。N社もそういうパラダイムシフトがあって奇跡的な回復を遂げました。

東京・ 池袋のエスエーエス東京センターにて 構成/小原田泰久

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