今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2022年1月「高砂 淳二」さん

高砂 淳二(たかさご じゅんじ)さん

1962年宮城県石巻市生まれ。ダイビング専門誌『ダイビング・ワールド』の専属カメラマンを経て、1989年にフリーカメラマンとして独立。世界100ヶ国を超える国々を訪れ、海中、虹、生き物、風景まで、自然全体のつながりや人とのかかわり合いなどを テーマに撮影活動を行っている。また、数多くの写真集・エッセイを出版している。

『リスペクトと感謝の気持ちをもって「自然」にカメラを向ける』

すべての生き物は役目があって地球上で生きている

中川:
ご無沙汰しています。どれくらいご無沙汰しているか調べてみてびっくりしました。前回、この対談に出ていただいたのが2000年でしたから、21年ぶりということになります。 あのときは写真家になった経緯などお聞きしました。先代のこともご存じだったというお話もされていたのを覚えています。
高砂:
そんなに前のことでしたか。早いですね。あのころから私は氣のことにすごく興味があったので、先代のことも存じ上げていました。先代もそうだし、ハイゲンキという機械にもとても興味がありました。
中川:
対談では、『アシカが笑うわけ』というご著書を紹介しました。あれからいろいろなところへ行かれたでしょうし、さまざまな体験をされたことと思います。
高砂:
『アシカが笑うわけ』のころは海に潜りながら写真を撮ることが多かったのですが、海底に這いつくばっているナマコとか石みたいに動かないサンゴとか人間と遊びたがるイルカなどを見て、なんでこんなにいろいろな生き物がいるのだろうと思っていました。 陸上にも目を向ければ、地球上には数えきれないほどのたくさんの生き物がいるじゃないですか。生き物たちが多種多様な生き方をしているのが不思議でたまらない時期でしたね。
中川:
確かに、地球の上は動物、植物であふれていますね。必要があって、いろいろな生き物がいるんでしょうね。
高砂:
その中に人間もいるわけですが、ほかの生き物から見たら、人間ってすごく不思議な生き物なんじゃないでしょうか。ほかの生き物が人間を見てどう思っているのだろうと想像したことがあります。獲物を追いかけるわけでもないのにわざわざ走ったり、釣った魚を食べずに逃がしたり、動物たちをペットにしてご飯を与えて散歩をさせたり、会社という群れで来る日も来る日も何かを手分けして作り、それを自分では使わずに紙切れと交換して喜んでいる。私たちがナマコを見て不思議だと思う以上に、彼らには人間のことが理解できないんじゃないでしょうか(笑)。
中川:
環境を破壊するのも人間だけだし。
高砂:
その通りですね。そんなことを考えているうち、人間ってなんのためにいるんだろうと気になって仕方なくなったのです。 いくら考えても答えは出ませんでしたが、2000年の夏にハワイの自然を撮影するためにマウイ島にひと月ほど滞在したとき、カイポさんという先住民の男性にお会いしたことがきっかけで、いろいろな疑問が解けていきました。
中川:
どんな方なのですか?
高砂:
薬草やロミロミというハワイの伝統的なマッサージ法で病気の治療をしている方でした。カイポさんを紹介してくれた知人の父親は、病院では治らなかった病状が、彼の治療で劇的に回復したそうなのです。 その話を聞いて、私は彼に弟子入りして、毎日のように彼のもとに通いました。 それまで何度かハワイへは行っていましたが、リゾート地としかとらえていませんでしたから、カイポさんとの出会いはとても新鮮でした。

中川:
カイポさんからはどんなことを教わったのでしょうか?
高砂:
ハワイでは「アロハ」とあいさつをしますが、とても深い意味があります。ひと言で言うと「愛」なのですが、もっと細かく言えば、アロハは「アロ」と「オハ」と「ハ」に分解されて、「アロ」は目の前のとか、シェアするとかいう意味、「オハ」はあいさつ、喜びなど、「ハ」は、呼吸、神の息吹き、生命などのことです。アロハになると神の息吹を共有する、分かち合うといった意味になります。
中川:
神の息吹を共有し分かち合うことですか。それがアロハなんですね。「ハロー」くらいの軽い気持ちで言っていますが、深い意味があるんですね。
高砂:
私は、アロハこそ人間の役割なのかなと思いました。 それで、私がずっと疑問に感じていた、なぜこんなにたくさんの生き物が地球上にいるのかということをカイポさんに聞いてみました。 カイポさんからはこういう答えが返ってきました。 生き物にはみんな役目があって、パズルのピースが集まって形を作り出すように、地球を成り立たせているのです。 ハイエナやバクテリアだったら大地の掃除をする存在だし、ミミズは土を耕します。なんのためにいるのだろうと思えるような小さな生き物も、自分では気づいていないかもしれませんが、もっと大きい生き物に食べられて栄養を与えるという役目があります。植物は酸素を供給したり、動物に食べられて命を養うという役目があります。 彼らはすべての生き物は意味があって存在するということをまったく疑っていません。食べられるというのも大事な役目だというのは、新しい発見でした。 海に潜っていると、逃げまどって一生を終える小魚たちを見ますが、彼らは逃げながらも嬉々として生きているように見えます。役目を果たしているからなんでしょうね。植物たちも「さあ、食べてください」と言わんばかりに凛として大地から生えているように見えます。

<後略>

東京・渋谷区の高砂さんのご自宅にて 構成/小原田泰久

PLANET OF WATER (NATIONAL GEOGRAPHIC)

高砂 淳二 (著)
ナショナル ジオグラフィック

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