今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2019年6月「樋口 英明」さん

樋口 英明(ひぐち ひであき)さん

1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒。全国各地の裁判所の判事を務め、2017年に定年退官。2014年、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じる判決を下した。2015年、福井県と近畿地方の住民ら9人が関西電力高浜原発3・4号機の再稼働差し止めを求めた仮処分申請に対し、住民側の申し立てを認める決定を出した。

『原発は極めて危険!原発を止めた元裁判長の責任感』

原発の建っているところには大きな地震がこないということが前提の基準

中川:
先代の会長である私の父は、当時のソ連へ出向いて行って、チェルノブイリ原発事故の被ばく者に氣の治療をしました。アメリカインディアンのホピ族の居留地にも行き、ウラン採掘で被ばくした人の治療をしたり、核の問題を長老と語り合ってきました。
そういう経緯があって、原子力発電所については、氣の観点から言っても良くないし、ひとたび事故があったら大変なことになるのは福島第一原発事故で明らかですから、やめたほうがいいという考え方でいます。
樋口さんは、2014年に福井地裁の裁判長として、関西電力の大飯原発の運転差し止めを命じる判決を出されました。
私は、こういう裁判官もいるのだと感心してあのニュースを見ていました。裁判で原発を止めたというのはあまり聞きませんからね。
樋口:
この間、数えてみたのですが、福島の事故以降、原発差し止め訴訟、あるいは仮処分で、地震を理由として差し止めるという決定をしたのは、裁判長の数で言うと2人ですね。それに対して止めなかった裁判長は17人になるかと思います。
中川:
2対17ですか。福島の事故のあとですよね。危ないことはわかり切っていても止めないという判決がほとんどなのはどうしてですか。
樋口:
原発の怖さを知っているかどうかじゃないでしょうか。私は、大飯(おおい)原発の裁判が始まったとき、「私は、原発が危険かどうかで決めます」と明言しました。
中川:
危険かどうかで判断するのは当たり前のことじゃないですか? ほかに何か基準があるのですか?
樋口:
危険かどうかがもっとも大切なことですよね。普通に考えればわかることです。私が出した判決は高裁で破られたわけですが、その判決の内容を見ると「新規制基準に従っているから心配ない」というものでした。でもその基準があやふやなのですから心配ですよね。
簡単に言うと、規制基準というのは震度7の地震は原発の建っているところにはこないということが前提に作られています。
中川:
えっ。原発のあるところには大きな地震はこないのですか?
樋口:
そんなことはあり得ませんよね。でも、それが前提になっているのです。
中川:
地震学というのもありますから、大きな地震が起こるかどうか、計算ができるのでしょうかね。でも、地震が起こるのを正確に予測したという話は聞いたことがないですね。地震がないとされているところに立て続けに大きな地震がきたりしていますから、その前提はあまり信じられないように思いますが。
樋口:
地震学は三重苦の学問だと言われています。地下深いところで起こることだから観察ができません。実験もできないですよね。それに資料が不足しています。
そもそも地震学はまだ歴史の浅い学問です。気象学だったら明治時代から観測をしていて、そのデータが蓄積されています。しかし、日本で本格的に地震の観測が始まったのは阪神淡路大震災以降です。それまでは地震計の設置個所が少なくて、データは非常に乏しいのです。
原発の耐震基準として「ガル」という単位が使われます。これは観測地点での地震の強さのことです。最近の地震では、北海道胆振(いぶり)地震が1796ガル、熊本地震が1740ガルです。中越地震が2515ガル、東日本大震災が2933ガル。日本でもっとも強かったのが2008年にあった岩手宮城内陸地震で4022ガルです。
それに対して、私が止めた大飯原発は、3・11当時の耐震基準が405ガルです。2018年3月時点で856ガルまで上げていると言っていますが、それでも2000年以降、1000ガルを超える地震が16回もありました。とても安心していられる状況ではありません。ほかの原発も同じです。これでは、「原発は安全です」とはとても言えません。
中川:
そういう地震は原発の建っているところにはこないという前提なわけですね。いいんでしょうかね。
樋口:
よくないですよ。多くの人が、原発はものすごく丈夫に作られている。どんな地震だって耐えられると思っているのではないでしょうか。でも、そんなことはありません。
住宅メーカーでは、今は3000ガル、4000ガル、5000ガルの地震に耐えられるような家を作っています。
住宅よりも地震に弱い原発が、こんなにも地震の多い日本にあっていいのかということですよ。それも、原発のあるところには大きな地震はこないということが、この基準で大丈夫という根拠ですから。少なくとも5回は耐震基準を超えた地震が原発を襲っています。その根拠もいい加減なものです。
そういう状況を「危険」と思わない感覚がおかしいと、私は思います。

<後略>

2019年4月5日 日比 谷松本楼にて 構成/小原田泰久

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