今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2018年11月 「三田 一郎」さん

三田 一郎(さんだ いちろう)さん

1944年生まれ。1965年6月イリノイ大学工学部物理学科卒業。1969年6月プリンストン大学大学院博士課程修了。コロンビア大学研究員、フェルミ国立加速器研究所研究員、ロックフェラー大学準教授などを経て、1992年より名古屋大学理学部教授、2006年4月より名古屋大学名誉教授、2006年〜2014年 神奈川大学工学部教授。著書「科学者はなぜ神を信じるか」(講談社)など。

『科学者たちは科学と神の関係をどう考えてきたか』

科学の話の中で神を持ち出すのは卑怯なことか

中川:
書店で先生の書かれた「科学者はなぜ神を信じるのか」(講談社)が目に止まって、手に取って何ページか目を通しました。そしたら引き込まれてしまって、最近の書店には椅子が置いてあるので、そこに座って最後まで夢中になって読んでしまいました。難しい科学の話をわかりやすく書いてくださっていて、それに科学という視点から神を見るというのはとても新鮮で、科学者というのはこういうふうに神を感じるのだなと、興味深く読ませていただきました。
先生は、若いころにアメリカに渡り、長年、理論物理学者として素粒子を研究されていて、紫綬褒章をはじめさまざまな賞を授賞されています。2008年に「小林・細川理論」がノーベル物理学賞に輝きましたが、その理論の実証にも貢献されるなど、科学者として輝かしい経歴をおもちです。その上、最近はカトリック教会の助祭という立場で神様とかかわっておられます。科学と神を語るにはぴったりの方だと思いますが、キリスト教とのかかわりは長いのですか。
三田:
母がカトリックの信者でした。カトリックの場合は幼児洗礼と言って、赤ちゃんのときに洗礼を受けますから子どものときから教会には行っています。
ただ、物理をやっていたときには、時間がなくて教会にはどっぷりとつかれませんでした。親からもらった信仰だから子どもに伝えないといけないと思っていて、子どもは教会に連れて行っていました。それくらいのかかわり方でしたね。
中川:
今では、教会でミサを執り行ったり、講座を開いたり、科学者と神様の本も出されて、ずいぶんと神様とのかかわりが深くなっていますね。
三田:
研究者としていろいろなことを学んだとき、宇宙にしても自然にしても素粒子にしても、物理的にものすごくきれいに感じるようになりました。どうしてこんなものができたのかと単純に思いました。
宇宙や地球が偶然できたと言われたら否定はできません。しかし、そうだとしても、この宇宙には科学法則があるのは間違いありません。この法則によって惑星は楕円軌道を描き、電磁気力は距離の2乗に反比例します。科学法則は「もの」ではないので偶然にはできません。宇宙が創造される前には、必然的に科学法則が存在していたはずです。では、その科学法則はだれが作ったのだろうと、疑問は広がっていったわけです。
私自身は、科学法則の創造者を「神」と定義しています。ルールが存在するということは、その創造者である神が存在することだと考えるようになりました。
中川:
なるほど。この世のすべては法則に基づいて動いていますからね。その法則はだれが作ったのだろうと考えると、神様としか言いようがないということですね。
先生が講演をしているとき、ある学生さんが「先生は科学者なのに、科学の話の中で神を持ち出すのは卑怯ではないですか」と質問してきたそうですね。
三田:
科学というのは神の力を借りずに宇宙や物質のはじまりを説明するものだと、彼は思い込んでいるようでした。一般の方は科学と神についてこのように考えているのだなと、このときに気づきました。
それ以来、ぼくにとってはぼくが科学者であることと、神を信じていることが矛盾しているわけではないことを、どのように説明すればよいかが一つのテーマになりました。
中川:
それでこの本を書かれたわけですね。歴史に残るような有名な科学者たちも、どこかで神を意識していたようにも思います。特に、欧米人はキリスト教を信じている人が多いので、神様は身近にあったでしょうから。
三田:
実はこの本もとても不思議な縁でできたものです。ぼくは、科学と神というテーマで本を書きたくて準備をしていました。でも、ぼくが書くと教科書みたいに硬くて難しいものになってしまいます。こんなのを出してくれるところはないだろうと思いながら一応、5年くらいかけて300ページ分くらい書き上げたわけです。
あるとき、結婚式を挙げたいというカップルが訪ねてきました。新郎新婦と証人2人だけでの結婚式をしたいと言うのですね。それもいいね、だれもいないから思い切ったことをやろうよ、アメリカだったら2人が抱きついてキスをするからそれをやろうよ。そんな話で盛り上がりました。
そのときの新郎が講談社の編集副部長で、ぼくが書いたものにとても興味をもってくれて、本にしてくれたんですよね。それこそ、神様に後押ししてもらったような気分でしたよ。

<後略>

(2018年9月10日 東京都港区・国際文化会館にて 構成/小原田泰久)

著書の紹介

「科学者はなぜ神を信じるか」三田一郎 著 (講談社)

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