2018年9月 「池田 清彦」さん
- 池田 清彦(いけだ きよひこ)さん
1947年東京生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授。東京教育大学理学部卒業。東京都立大学大学院生物学専攻博士課程修了。科学論・社会評論の執筆からテレビ番組出演まで幅広く活躍している。趣味は昆虫採集。著書は「なぜ生物に寿命はあるのか」(PHP文庫)「この世はウソでできている」(新潮文庫)「ほどほどのすすめ」(さくら舎)など多数。
『何事もほどほどにしておいた方がうまくいく』
虫にも人にも個性がある。 自分のキャパの範囲でがんばる
- 中川:
- 池田先生のことは、テレビ(「ホンマでっか!?TV」)でよく拝見していて、ユニークなものの見方をされる先生だと感心しています。今日は、その先生にお目にかかれて、直接お話が聞けるというので楽しみにしていました。
最近、先生が書かれた「ほどほどのすすめ」(さくら舎)という本を読ませていただきました。先生の歯に衣を着せないお話は、読んでいてすかっとしたり、ほっとしたり、とても楽しくためになる本でした。 - 池田:
- ありがとうございます。もうこの年ですから、何を言っても許されるかと思いましてね(笑)。言いたいことを言っています。
- 中川:
- 先生のご専門は生物学で山梨大学や早稲田大学で教鞭をとられていたんですよね。
- 池田:
- 山梨大学が25年、そのあと早稲田大学に14年ですね。
- 中川:
- 先生は虫がお好きだということでも有名ですね。今日は、先生が名誉館長をされている「TAKAO 599MUSEUM」にうかがっているのですが、高尾山に生息する動物や昆虫、植物が展示されていて、なかなか見ごたえがありますね。昆虫の標本をこんなにじっくりと見たのは初めてですが、よく見ると、虫ってすごくうまくできていますよね。子どもが昆虫採集に夢中になるのもわかる気がします。
- 池田:
- そうでしょ。どれだけ科学技術が発展しても、あれだけのものを作り出すことはできませんよ。そんなすごいものが、ちょっと野山へ入ると、たくさんいます。興奮しませんか(笑)。
解剖学者の養老孟司さんも虫が好きでしょ。10月28日には養老さんをお呼びして、ここでトークショーをします。6月4日の虫の日には、養老さんに呼ばれて鎌倉の建長寺へ行ってきました。養老さんは、建築家の隈研吾さんに頼んで建長寺の一画に「虫塚」という建物を建てて、そこで毎年6月4日に虫供養をしているんですね。虫をずいぶんと殺してしまっていますから、供養をしないといけないというわけですよ。養老さんは医学部だし、ぼくも生物学なので、年に一度、実験動物の動物慰霊祭というのをやっていました。その虫版かな。
月曜日の1時だったにもかかわらず、トークショーはすぐに満員になりました。そのあと、虫供養ということでお焼香をして、建長寺のお坊さんが13人で読経をしてくれましてね。 - 中川:
- それはずいぶんと大がかりですね。ところで、今年の夏は異常に暑いですが、虫たちにも影響があるのではないですか。
- 池田:
- 暑いと虫は減りますね。虫取りをするなら朝の9時か10時まででしょう。でも、暑いのが好きな虫もいますけどね。虫にも個性があります。
虫の世界もいろいろと変化がありまして、高尾山にはルリボシカミキリというきれいな虫がいますが、昔は1500メートルくらいの高い山にしかいなかったのが、だんだんと下がってき599メートルの高尾山でも見られるようになりました。ナガサキアゲハみたいに昔は九州しかいなかったのに、今は関東にもいます。 - 中川:
- 虫にも個性があるとおっしゃいましたが、先生の本を読んでいると、人にもそれぞれ個性があって、こうでなければならないと決めつける必要などないのだと思えてきますね。今は、ひとつの価値観にがんじがらめになっている人が多いですからね。
- 池田:
- ほどほどって悪いみたいに思われているじゃないですか。「いい加減」とか「適当に」と似ていますよね。でも、多過ぎず少な過ぎずいい加減なんだから一番いいんですよ。何事もいい加減にやったほうがいいと、ぼくは言っているんですね。いい加減を過ぎると疲れちゃうし、いい加減に達しないのもまた困りますよ。適当がいいし、ほどほどにやることがちょうどいいんです。
- 中川:
- とにかくがんばれば皆同じようにできるみたいな教育だし、自分にとってのほどほどがわからなくなっている人も多いと思います。
- 池田:
- 学校は横並びですから。教え方も同じでしょ。同じように教えると、わかる人はあきるし、できない人は付いていけないし。親も、隣の子と比較して、どうしてうちの子はできないのかと悩んでしまう。キャパが違うのだから仕方がないんですよ。
おとなになっても、職場で隣のやつはちっとも仕事ができない、何をさぼっているのかとイライラしてみたりするけれども、その人はその人なりに目いっぱいやっていたりするわけです。目いっぱいやってできないのだから仕方ないじゃないですか。
自分のキャパを知って、その範囲でがんばることですよ。仕事のできる人を見て、自分もがんばればあれくらいできるようになると思ったりすることもあるでしょ。でも、いくらがんばってもキャパが違うとなかなかできないんですよ。それでもまだがんばろうとする。あまりがんばると切れてしまいます。
<後略>
(2018年7月20日 東京都八王子市のTAKAO 599 MUSEUMにて 構成/小原田泰久)
- 著書の紹介
「ほどほどのすすめ ― 強すぎ・大きすぎは滅びへの道」 池田 清彦(著)(さくら舎)