今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2018年4月 「前野 茂雄」さん

前野 茂雄(まえの しげお)さん

1966年東京で生まれ、輸入雑貨や飲食業の事業を展開するが、1998年に大病を患ったことがきっかけで、営利目的の仕事ではなく社会に寄与する活動を始める。現在、特定非営利活動法人頭脳スポーツ財団理事長、一般財団法人日本認知症総合対策推進機構会長、一般財団法人地球環境振興財団理事長、一般社団法人社会貢献事業財団代表理事など、さまざまな役職を兼務しながら活動している。

『何度も大病を乗り越え、頭脳スポーツで社会に貢献する』

大人と子どもが対等の関係で楽しめるアナログゲーム

中川:
前野さんの『今を生きる』(八重洲出版)という本を読ませていただきました。波瀾万丈の人生の中で、今は「頭脳スポーツ」を普及させる活動をされているとのことですが、頭脳スポーツというのはあまり聞きなれない言葉ですよね。まずは、頭脳スポーツとはどういうものかご説明いただけますか。
前野:
要は、頭を使って行うゲームのことです。たとえば、将棋や囲碁、チェス、オセロ、人生ゲームといったボードゲーム、麻雀のようなテーブルゲームやパズル、トランプなどのカードゲーム、百人一首のような伝統的なゲームですね。世界には、数え切れないほどの頭脳スポーツがあります。この事務所の中だけでも約5000種類のゲームがあって、遊び方は8000種類くらい。倉庫にも保管してありますから、本当にどれくらいあるかわかりません。
中川:
今はデジタルゲームの時代ですから、一人で楽しんでいる人がたくさんいて、実際に人と人が向き合ってゲームを楽しむような場は少なくなりましたね。
前野:
そうなんですね。デジタルな世界が広がり過ぎて、子どもも大人も、人とのコミュニケーションが苦手になっています。直接顔を合わさなくてもメールで用が足りてしまったりしますから。子どもばかりではなくて、大人も初対面の人にあいさつができなくなっています。
学校では「知らない人と口をきいてはいけない」と教えているものですから、こちらから子どもたちにあいさつをしても返事が返ってきません。これっておかしいですよね。
頭脳スポーツはアナログの世界ですから、頭を鍛えながら心も育てることができます。ゲームを通して、あいさつや礼儀から始まり、楽しみながらさまざまなことを、学校の勉強とは違った視点で学べます。
中川:
今は少子化で一人っ子も多いじゃないですか。コミュニケーションの取り方がよくわからない子どもも増えているのではないでしょうか。
前野:
そうですよね。兄弟げんかはいい勉強の場なんですね。けんかをしたとき、どうしてけんかになったのか、どうやって仲直りするのかを学ぶことができます。他人だと、けんかをしたら口もきかなくなって疎遠になってしまうじゃないですか。兄弟だからこそ学べることがあります。
若い人たちがたくさんの子どもを産んで育ててくれればいいのですが、なかなかそうもいかなくて、少子化の流れは止まらないですよね。
そうなると、親が兄弟のような立場になることが必要になってきます。子どもと対等の立場で一緒に遊ぶことです。遊ぶと言っても、キャッチボールやサッカーは、小学生くらいなら親が子どもに教えるという上下関係があります。しかし、ゲームだと違ってきます。たとえば、カタンというゲームをご存知ですか。ドイツではとても人気のあるテーブルゲームですが、このゲームを親と子が一緒にやった場合、子どもの方が先に覚えて、強かったりするわけです。子どもが親に「こうやってやるんだよ」と教えてあげる。親もがんばって覚えて対決しても勝てなかったりする。悔しくて本気になる。そんな対等の関係がゲームだと作れるのです。
中川:
なるほど。対等の関係が大事だということですね。アナログゲームにはそういう良さがあるということですね。
前野:
デジタルゲームで一人で遊んでいては人と人との関係は学べません。
世の中は、何かを得たら何かを失うようになっています。昔は、100軒くらいの電話番号を覚えていたじゃないですか。でも、今は全部携帯が記憶してくれているから、覚えなくていいですよね。記憶する力を失っているかもしれません。カーナビが登場して、道も覚えなくていいですしね。でも、道に迷ったときに、こっちへ行けばいいという感覚が失われてしまいました。便利であまり体を使わなくなれば、健康を損ねることもありますしね。と言っても、デジタルを否定しているわけではなくて、アナログを見直そうよと言いたいのです。

<後略>

(2018年2月23日 東京・台東区の頭脳スポーツ財団の事務所にて 構成/小原田泰久)

著書の紹介

今を生きる ~人生は三度やり直せる~前野茂雄(著) 八重洲出版

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