2016年6月 「エバレット ブラウン」さん
- エバレット ブラウン(えばれっと ぶらうん)さん
アメリカ生まれ。88年から日本に永住。日本芸術文化国際センター芸術顧問、文化庁長官表彰(文化発信部門)被表彰者。epa通信社日本支局長を経て、2012年より日本文化を海外に紹介する企画に携わる。国内の媒体を始め、「ナショナル・ジオグラフィック」「GEO」「家庭画報INTERNATIONAL」などに広く作品を寄せる。著書に『俺たちのニッポン』、『日本力』(松岡正剛氏との共著)ほか多数。
『湿板(しっぱん)写真で日本の文化、日本人の感性を甦らせたい』
先代がマデレーネ島へ行ったときに写真を依頼されて同行した
- 中川:
- エバレットさんは、先代と会っているんですよね。
- ブラウン:
- そうなんですよ。何度も。でも、会長ともお会いしていますよ。どこでだったかなあ。
- 中川:
- あれ、そうでしたか。それは失礼しました。ひょっとして、先代を訪ねて来られたときに、ごあいさつしたのかな。
- ブラウン:
- そうだったかもしれません。いずれにせよ、ずいぶんと前の話です。先代の会長が亡くなられてから、20年くらいたちますか。楽しくてすてきな方でした。
- 中川:
- 亡くなったのが1995年の12月です。北極圏の小さな島で、先代と会ったということでしたが、偶然だったのですか?
- ブラウン:
- カナダのマデレーネ島というところでした。
会ったのは偶然じゃないですよ。グリーンピースのマイケル・ベイリーという人が、マデレーネ島を舞台に、環境保護のビデオを作るという企画を立てました。写真も必要だと言うので、ぼくが依頼を受けました。確か、静子さんという通訳の方が、ぼくをマイケルに紹介したのだと思います。静子さんとは、その前に何度かお会いしたことがありましたから。 - 中川:
- 撮影は氷の上でしたからね。
- ブラウン:
- あのころ、あざらしが漢方薬の原料として殺されていて、それを何とかしようとマイケルは考えたみたいです。氣功がもっと広がれば、病気を治療するために、動物たちの貴重な命を奪って漢方薬を作る必要はないということを、ビデオで訴えたかったみたいです。それで、先代にビデオへの出演を依頼したみたいです。
一週間くらい、その島に滞在しました。みんな防寒着を来て、大変な撮影でしたが、楽しい旅でした。先代から、氣の話をたくさんお聞きしました。とても面白かったですよ。すごく納得できました。
それに、あの島は、イセエビがたくさん取れるんです。ですから、イセエビが食べ放題。あれは、最高でした(笑)。 - 中川:
- そうですか。きっと先代は喜んだでしょう。カニとかエビが大好きでしたから。
そう言えば、先代とあざらしの赤ちゃんの写真が、全日空の機内誌に載ったことがありましたが、あれを撮ってくれたのはエバレットさんだったんですね。 - ブラウン:
- そうです、そうです。ぼくが企画を持ち込んで掲載されることになりました。懐かしいですねえ。
今回、こうやって会長とお会いできたのは、『地球交響曲第八番』を見に行ったとき、ライターの小原田さんとばったりとお会いしたことがきっかけでした。
何か、導かれるような再会だと、とても感動しています。 - 中川:
- 私も、先代とご縁のあった方と、こうやってお会いできるのは、すごく縁を感じます。きっと、あちらの世界では、先代も喜んでいることと思います。
ところで、エバレットさんが撮っている写真を拝見したのですが、これ、なんて説明すればいいのでしょうか、深い味わいのある写真ですね。100年も前の写真のように見えるのですが。 - ブラウン:
- ありがとうございます。湿板写真と言います。1851年にイギリスで発明されて、日本にも数年後の享保年間に入ってきています。
幕末から明治に撮られたもので、よく目にする写真がありますよ。坂本龍馬です。あれは、湿板写真で撮られています。 - 中川:
- わかります。確か、何十秒か動いてはいけないんですよね。
- ブラウン:
- そうです。20秒とか30秒とか、暗いところを撮るには15分くらいというのもあります。
- 中川:
- 湿板写真というのは、今はほとんど使われてないでしょうが、カメラがよくありましたね。
- ブラウン:
- レンズは、幕末から明治に使われていたものが手に入りました。カメラ本体は、どこにもなかったので、職人さんに頼んで作ってもらいました。
レンズは、もちろん性能は良くありませんが、逆に、性能が悪い分、ぼけ具合がすごくいいのです。ぼくたちが肉眼で物を見ているときというのは、これに近いんじゃないでしょうか。 - 中川:
- 意識して見ているところにだけピントが合って、その周辺部はぼけているというのが、私たちの物の見え方かもしれませんね。
- ブラウン:
- そうなんですよ。みなさん、ぼくの写真を見て、幻想的だと言いますが、実は、幻想的でも何でもなくて、ぼくたちがいつも見ている世界なんだということですね。
- 中川:
- なるほど。今のカメラで撮った画像は、きれいすぎて、私たちが見ている景色じゃないんですね。
- ブラウン:
- そうです。あれが理想的な見え方なのかもしれませんが、何か、きれいすぎて違和感がありますよね。
<後略>
2016年4月5日 東京・有楽町 日本外国特派員協会 にて 構成/小原田泰久