今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2014年12月 「山口 創」さん

山口 創(やまぐち はじめ)さん

1967年静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。現在、桜美林大学教授。専攻は健康心理学・身体心理学。スキンシップの大切さなど、心と体の癒しをテーマに研究している。主な著書に「愛撫・人の心に触れる力」(NHKブックス)「幸せになる脳はだっこで育つ。」(廣済堂出版)「手の治癒力」(草思社)など多数。

『手には治癒力がある。鍵はオキシトシンというホルモン』

心が体に影響を与える場合もあれば、その逆もある

中川:
日本ホリスティック医学協会の情報誌「HOLISTIC NewsLetter」で、山口先生の講演要旨を読ませていただいて、とても興味をもちました。「手の治癒力」という演題でしたが、私どもは氣功をやっていますので、手に治癒力があると聞くと、自分たちがやっていることが裏付けられたような気がしてうれしくなります。昔から、治療や癒しを「手当て」と言いますから、手の治癒力というのは感覚的にはとらえられていたのでしょうが、それが理論として説明できれば、薬だけに頼らずに、手の力をもっと活用しようという人がさらに増えるのではと思います。
先生は、心理学がご専門ですよね。心理学と言うと、心のことを研究する学問ですが、手の治癒力とどう結びつくのか、そのあたりからお話いただけますか。
山口:
講演要旨を読んでいただき、ありがとうございます。私の専門は健康心理学です。一番新しい心理学です。大学として講座をもっているのは2校だけです。桜美林大学と大阪人間科学大学ですね。これは、健康な人がストレスを感じたときそれをどう回復させていくか、あるいはもっと幸福で充実感をもって生きるにはどうしたらいいかということを考えていく学問です。
アメリカではとても注目されていて、認知度も高いのですが、日本ではまだまだですね。
中川:
私も初めて聞きます。もともと、身体心理学という分野から始められたそうですが、身体心理学というのも、あまり耳慣れない学問ですが。
山口:
心理学の中の一分野として確立されたものではないのですが、体の方から心を見ていくという考え方で研究活動をしているものです。心理学というと、心だけを追求する学問で、体のことはあまり考えません。ストレスによって胃潰瘍になるといったように、心の状態が体に影響を与えるというのは、心と体の関係としてずっと語られてきました。しかし、その逆もあるのではということから、身体心理学は始まっています。東洋的な思想では、「身心一如」と言って、心と体は分けて考えられないわけで、心が体に影響を及ぼすこともあれば、逆に体が心に影響を与えることもあるはずです。
19世紀後半に、ウイリアム・ジェームズという心理学の大家が、「我々は悲しいから泣くのではなくて、泣くから悲しくなるのだ」と言いました。泣くという身体変化が悲しいという心を生み出すというわけです。その時代には、それを証明する手段がなかったのですぐに否定されてしまいましたが、最近では、体を動かしたときにどのような変化が脳に伝わり、心がどのように変わっていくかというメカニズムが次々と明らかになってきたのです。
中川:
心というのはなかなか思うようにコントロールできませんが、体から入れば、心のコントロールもしやすいかもしれませんね。笑顔でいれば心も晴れてくるといったような、そういう解釈でいいのでしょうか。
山口:
その通りですね。姿勢もそうですね。自分の意志で姿勢を変えると、心に変化が出てくるという実験結果も出ています。
中川:
以前に対談した禅宗の枡野俊明さんも、所作を整えることで、言葉が変わり、心が豊かになるとおっしゃっていました。たとえば、礼服を着れば、背筋がピンと伸びて、心もシャキッとしますよね。ジャージ姿でソファに横になっているときとは心の状態も変わってきます。
ところで、体と心の関係で、手の治癒力というのは、どうかかわってくるものなのでしょうか。
山口:
身体心理学という学問の中で、私がとても興味をもってかかわっているのが「人に触れる」という行為です。人に触れる、あるいは触れられるというのは、まさに体に働きかける行為なので、8体から心を変えるアプローチの一つなのです。たとえばマッサージをしてもらうと、とても気持ち良くて、心もリラックスしますよね。手で触るというのは、人の根源的なところに浸み込んでいく力があります。辛い思いをしているとき、ハグされたり、手で背中をなでてもらうと、とても勇気づけられます。相手の心に働きかける不思議な力を手はもっているのです。もっともっと活用した方がいいと、私は思っています。

<後略>

(2014年10月1日 東京都町田市・桜美林大学にて 構成 小原田泰久)

著書の紹介

「手の治癒力」 山口 創 著 (草思社)

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