2014年5月 「安藤 久蔵」さん
- 安藤 久蔵(あんどう きゅうぞう)さん
1911年(明治44年)千葉県生まれ。慶應義塾大学卒業。貿易会社を経て、家業の水産業を継ぐ。50歳で引退し、学生時代からの趣味である登山に没頭。日本の山々だけにとどまらず、世界各地に遠征する。85歳から、コーヒー豆の輸入・販売の事業を始める。現在、東京都杉並区西荻窪で「アロマフレッシュ」という店を営む。
『長生きの秘けつ? 生きることが好きになればいいんじゃないかな』
若い人が喜ぶことをすれば若い人が集まって来て若返る
- 中川:
- 安藤さんは、今年の2月で103歳になられたとか。これまでたくさんの方とお会いしてきましたが、103歳の方というのは初めてです(笑)。それにしても、お若くてびっくりしています。100歳を過ぎているとはとても思えませんね。
- 安藤:
- みなさん、そう言ってくれるね。最近、また若くなったみたいでね(笑)。私、山へよく行くでしょ。そのとき、若い人を連れていくんですよ。山ガールね(笑)。若い人と付き合うと若返るよ。
若返るには、何と言っても、気力が大事だね。年を取って「ダメだあ」とか言っていると、どんどんとしわが増えてくる。気力をなくしちゃおしまいだね。
昔から、健康でいるには、食べること、運動が大事だって言うでしょ。でも、それだけじゃ足りなくて、三番目に思考ね。これが大事。今は、この思考が欠けている。食べて多少運動はしても、あとはテレビを見ているだけ。人と付き合うのを嫌がるしね。それじゃあ、若くいられるはずがない。 - 中川:
- なるほど、気力ですか。私どもは、氣をテーマにしています。きっと、安藤さんがこうやって元気で生き生きとされているのは、氣のエネルギーが高いからだと思いますよ。氣が満ち満ちている人のそばにはたくさんの人が集まってきます。安藤さんのまわりにも、人がいっぱい集まってきますよね。
- 安藤:
- 毎年、春になると近くの善福寺公園で花見をするんだけど、300人くらい集まってくるからね。ほとんどが若い人。10時くらいに集まり出して、若者は夜の11時くらいまで大騒ぎしている。私は、早めに失礼するけど、よく集まってくれると思うね。
- 中川:
- みんな安藤さんのエネルギーに引き寄せられて集まってくるんですよ。安藤さんは、西荻窪でコーヒー豆を販売されていますが、お店にもたくさんの人が来られるみたいですね。
- 安藤:
- ニートの兄ちゃんも来たことがあったね。平日の昼間に、それも2人で。「仕事は何やっているの?」って聞いたら、「何もやってない」って言う。私は、ほめてやるの。偉いねって。皮肉じゃないよ。だって、働かないで食っていけるんだから大したものでしょう。私なんかこの年で働かないといけないんだから。
私は、生まれ変わったら、あんたたちみたいに、働かなくても生きて行ける人生を選ぶよって言ってやる。だから、一生、この生き方を通しなさいよって、励ましてあげるわけだ。
彼らは、ニートでほめられたことなんかないから、最初は面食らうんだけど、居心地がいいのか、しょっちゅう、顔を出すようになる。まあ、うちへ来ればただでコーヒーが飲めるからね(笑)。 - 中川:
- 説教ばかりされてきたでしょうから、ほめられたらうれしくなりますよね。でも、ほめられているうちに、彼らも変わっていくんじゃないですか。
- 安藤:
- そうね、何ヶ月か通ってくるんだけど、だんだんと来なくなる。久々に顔を出したときに、どうしてたんだと聞くと、働き始めたって言う。「何言ってんだ。一生、ニートを通すって言ったじゃないか」って、文句言ってやるんだけど、ここへ通っているうちに、自分みたいな若いのがぷらぷらしていちゃいけないなって思うようになったって言い出してね。レストランでアルバイトを始めたんだって。「近くへ来たら寄ってよ。焼きそば、二人前おまけするから」なんて言ってたよ(笑)」
- 中川:
- 安藤さんの働く姿を見て、何か感じるものがあったんでしょうね。言葉だけで言ってもなかなかわかってもらえないけど、行動していれば、それを見て感じてくれますね。
- 安藤:
- 100歳を過ぎて働いているんだから、何か感じたんだろうね。人間は、ついつい、口でわからせようとしてしまう。昔は、職人なんか、見て覚えろと言われたものでね。親方のやるのを見て覚えて一人前になったから、腕も確かだよ。いまは、一から十まで当たり前のことまで教えてあげるから。
- 中川:
- でも、安藤さんのところに若い人が集まってくるというのは、何かコツがあるんでしょうかね。
- 安藤:
- 簡単、簡単。若い人が喜ぶことをすればいいだけのこと。年寄りはすぐに説教をしたがるから若者が寄り付かない。特に、現役時代に偉かった人は、若いころの自分はこうだった、ああだったって自慢したりするから、若者が寄りつかない。そういう人が定年になると、さみしい人生になるよ。自分は大したものじゃないという気持ちで若者と接すれば、若者も話に乗ってくる。
それと、年寄りだから面倒を見てもらうのが当たり前だと思ったら嫌がられるね。反対に、何かをやってあげれば、まわりがありがたがってくれる。長生きしてねと大事にしてくれるものですよ。だから、やってもらうよりもやってあげることを考える。そのためには健康じゃないといけないよね。
もてる年寄りになるには秘けつがある。教えてあげるよ。まず、愚痴らないこと。次にさみしいからと言って相手をべたべたと触らないこと。そして、仲良くなったからと言って、ふだんの買い物とかまでお願いしちゃダメ。とにかく、いつになっても自立していることが大事なんだよ。その気力を失わないことだね。
(後略)
(2014年3月12日 杉並区西荻窪「かがやき亭」にて構成 小原田泰久)