今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2014年3月 「長堀 優」さん

長堀 優(ながほり ゆたか)さん

1958年東京都生まれ。群馬大学医学部卒業。横浜市立市民病院研修医をへて、横浜市立大学医学部第二外科(現・消化器腫瘍外科)に入局。ドイツ・ハノーファー医科大学に留学。その後、横須賀共済病院外科医長、横浜市立みなと赤十字病院外科部長をへて、現在、「財団法人 船員保険会 横浜船員保険病院」副院長・外科部長。著書に「みえない世界の科学が医療を変える」(でくのぼう出版)がある。

『えない世界を受け入れたとき医療は大きく変化する』

病気がきっかけで 今まで以上に充実した 毎日を送れる人もいる

中川:
先生は「見えない世界の科学が医療を変える」(でくのぼう出版)という本を出されましたが、病院の副院長と外科部長をやっておられる方がこういう本を書かれたというので、とてもワクワクしながら読み進めました。本の中にいろいろな先生方が登場してきますが、推薦文を書かれている村上和雄先生をはじめ、池川明先生、安保徹先生、寺山心一翁先生、鈴木秀子先生、それに臨死体験の話で出てくる木内鶴彦さんら、対談させてもらったことのある方がたくさん出ていて、先生にはとても親近感を感じています。先生とはご縁が深そうですね(笑)。
長堀:
そうですか。何か深いつながりを感じますね。今日、こうやってお会いできたのも、きっと必然なのでしょうね。
中川:
先生は、昔から見えない世界のことには興味をもたれていたのですか。
長堀:
いえいえ、若いときは唯物論者でした。学生時代は物理が大好きでしたし、医者になりたてのころは、大学で教えてもらった医学以外には目が向かなかったですね。ですから、死についてはもちろん、患者さんの心についても考えたことはほとんどありませんでした。
中川:
それがまたどうしてこういう本をお書きになるようになったのでしょうか。
長堀:
医師として経験を積むうち、いろいろなことを感じるようになりました。たとえば、人間の治る力ですね。若いころは、術後の経過が順調じゃないときには、自分の手技が良くなかったからだと思っていました。しかし、ある程度の経験をつんで技術も安定してくると、治療の結果には、手技の良し悪しだけではない、別の要因もあることがわかってきました。それが、患者さんの治る力ですね。同じように手術はうまくいったのに、Aさんはすぐに回復して、Bさんはなかなか元気になれないということは、よくあることです。これは、科学では説明できません。
中川:
機械なら、同じ処置をすれば同じ結果が出ますからね。人間はそういうわけにはいきませんね。
長堀:
そうなんですね。私の学位論文を指導してくださった先生は、徹底的に科学的な思考を仕込んでくれたのですが、私の論文が出来上がったときに言った言葉がとても印象的でした。「医療は科学ではないんだ。科学らしくしているだけなんだぞ」って言いました。これは本当に意外でした。それがずっと頭に残っていました。そのあと、医学に対する見方を変える上でとても影響があったひと言でしたね。
中川:
アプローチ的には科学的なものの見方は大事ですよね。ただ、それだけでは説明できないことがたくさんあるということも知っていないといけないですね。科学を突き詰めていくと、わからないことがたくさんあることに気づくようですね。村上先生も、生命というのはあまりにもうまくできすぎているとおっしゃっていました。
長堀:
その通りですね。医者を何年もやっていると、さっきの治る力もそうですが、患者さんからいろいろなことを気づかせていただけます。特に、がんの患者さんは死と直面している方たちで、中には医療では治せない方もいます。そうした方と接することで、考え方が大きく変わっていきました。
彼らは決して落ち込んでいるばかりではありませんでした。驚いたのは、病気をきっかけに、生き方や考え方を見つめ直して、健康だったときよりも充実した毎日を送っている人がいたことです。さらに、気持ちの持ち方が変わることで、実際に病気の進行が遅くなるという患者さんもおられました。
絶望的な状況を理解しながらも、微笑みすら浮かべながら病気に立ち向かっている患者さんたちと触れ合っていると、目に見えない心のあり方というものが、体の状態や病気の進行に影響を与えているんじゃないかと思うようになってきましたね。今までの私の知識や考え方では説明のつかないことが、医療の現場ではたくさん起こっていたのです。

(後略)

(2014年1月22日 神奈川県横浜市の横浜船員保険病院にて 構成 小原田泰久)

著書の紹介

「見えない世界の科学が医療を変える―がんの神様ありがとう」 長堀 優(著) (でくのぼう出版)

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