2012年12月「清水 克衛」さん
- 清水 克衛(しみず かつよし)さん
1961年東京生まれ。書店「読書のすすめ」店主。NPO法人「読書普及協会」理事長。94年「読書のすすめ」を東京都江戸川区篠崎にて開業。2003年に「読書普及協会」を設立し、「良質なご縁から生まれる成幸の法則」をテーマにした講演活動を全国で行っている。著書に、「5%の人」「他助論」(サンマーク出版)「非常識な読書のすすめ」(現代書林)などがある。「読書のすすめ」公式サイト http://dokusume.com/
『たった一冊の本との出あいで、人生はがらりと変わる』
八百屋さんで新鮮な野菜をすすめるように本をすすめる本屋さん
- 中川:
- 清水さんは、「本のソムリエ」ということで、よくマスコミでも取り上げられていて、たくさんの本も出されています。私も『他助論』という本を読ませていただきましたが、この人、ただ者ではないぞと感じまして、今日は、お話をうかがいにまいりました。よろしくお願いします。
- 清水:
- ありがとうございます。「本のソムリエ」というのは、3年前に「エチカの鏡」という番組に出たときに、ディレクターから「そう呼んでもいいですよね」と言われて、「いいですよ」と言ったことが始まりです。自分からは恥ずかしくて言ったことなんてないですよ(笑)。
- 中川:
- そうですか。お客さんに、その人が読むといいだろうなと思える本をずっとすすめてこられたんですよね。本を選ぶ手助けをするという意味では「本のソムリエ」という言い方も間違ってないかもしれません。本屋さんで本をすすめられるというのは珍しいですよね。私は、そんな体験ないですね。
- 清水:
- あんまりないでしょうね(笑)。立ち読みしていると、店員さんに肩を叩かれて、「こんな本があるけどいかがですか」ってすすめられるんですから。最初のうちは、声をかけると、みなさんびっくりされました。すーっと店を出て行ったり、中には、「何かの宗教ですか」といぶかしがったり、「放っておいてくれ」と怒鳴る人もいました。でも、だんだんと私の気持ちがわかっていただいたのか、口コミで、あの店は面白いという話が伝わって、店に足を運んでくれる人も増えてきました。
- 中川:
- どうしてそんなことを始められたのですか?
- 清水:
- たとえば、八百屋さんや魚屋さんへ行けば、「今日はこんなにイキのいいのが入っているよ」ってすすめられるじゃないですか。それと同じですよ。
- 中川:
- なるほど。そう言われればそうですね。本屋さんで本をすすめるのは当たり前のことかもしれませんが、私の知る限り、そんなお店はないですね。
- 清水:
- 世間で売れている本は、うちくらいの規模では入荷しません。世間で売れているものを売るという発想だったら、とっくにつぶれていたと思いますよ。それに、うちの店は、駅からも離れているし、人通りが多いわけでもないし、繁盛する要素はまったくありません。ここで本屋を始めるとき、だれもが反対しました。「エッチな本の専門店だったらいいかもしれない」というありがたいアドバイスをしてくれた人もいました(笑)。そんな状況ですから、生き残るためには、工夫するしかありません。
- 中川:
- 確かに立地はいいとは言えませんね。
- 清水:
- あるとき、斎藤一人さんがふらっとお店に入って来られたことがありました。タイトルは忘れましたが、ある本を探していました。私はその人が斎藤一人さんだとは知らず、「お客さん、もっと面白い本がありますよ」とおすすめしました。1時間くらい話しましたかね。あのころ暇でしたから(笑)。「じゃあ、それも買っていくよ」と言ったあと、一人さんは、「君みたいに元気な人が江戸川区でがんばっているのはうれしいよ。これとっときなよ」と、1万円くれました。一人さんも江戸川区にお住まいなんですね。それがきっかけで、「何か面白い本はないの」と、昔は週に3回くらいきてくれました。おすすめして、面白いとなると、2千冊とか3千冊買ってくれました。自分がすすめた本をそんなに買ってもらうと、もっと勉強しないといけないと思いましたね。
- 中川:
- 出会いのドラマですね。普通の本屋さんだったら、そんなことは起こらなかったですからね。
清水さんは、本との出あいで、何か印象的なことはあったのですか。 - 清水:
- 大学生のときでしたが、3時間くらい電車に乗らないといけないことがあって、そのとき暇つぶしに読もうと思って買ったのが、司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」でした。この本が、私の人生をがらりと変えました。竜馬は、独自の商人感覚で武士の時代を変えていきました。「まわりに流されず、時代に流されず、常に自分流で生き抜く男の中の男に出会った、この男に惚れた!」と思いました。そして、それをきっかけに、「商売って面白い」「商人ってかっこいい」と、自分の進むべき方向が決まりました。
(後略)
(2012年9月25 日 東京都江戸川区「読書のすすめ」にて 構成 小原田泰久)
- 著書の紹介
「他助論」(サンマーク出版)
「非常識な読書のすすめ」(現代書林)