今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2012年7月 「篠浦 伸禎」さん

篠浦 伸禎(しのうら のぶさ)さん

1958年生まれ。東京大学医学部卒。東大医学部附属病院、国立国際医療センターなどで脳神経外科医として勤務。シンシナティ大学分子生物学部に留学し、帰国後、国立国際医療センター、都立駒込病院に。現在、都立駒込病院脳神経外科部長。脳の覚醒下手術ではトップクラスの実績をもつ。著書に「人に向かわず天に向かえ」(小学館)「臨床脳外科医が語る人生に勝つ脳」(技術評論社)など。

『脳外科の臨床現場から見た瞑想・氣・人間学の効果』

脳の覚醒下手術によって脳の各部の機能がわかってきた

中川:
先生は、脳外科医なのに、心のことや人間学の大切さを盛んにお話されています。ユニークなお医者さんもいるものだと思いまして、本を読ませていただいたら、とても興味深いお話がたくさん書かれていましたので、ぜひお会いしたいと思っていました。こうやってお会いできて光栄です。
篠浦:
ありがとうございます。私は、脳外科医で、脳の覚醒下手術を行っています。文字通り、患者さんが起きたままの状態で手術を行います。実際に、患者さんと話をし、反応を見ながら脳の手術をしていると、さまざまなことがわかってきます。言い方は悪いかもしれませんが、どんな脳科学の実験よりも、はるかに具体的で重要な情報を手に入れることができたのです。その経験から、人間の行動や感情をコントロールしているのは脳だと、実感できるようになりました。そんなことから、心とか人間学に興味をもつようになってきました。
中川:
意識がある中で脳の手術をするというのは、正直、驚きなのですが、どれくらい前からそのような手術は行われているのですか? 想像すると、怖いような気もしますけど(笑)。
篠浦:
都内では、駒込病院と東京女子医大病院くらいですかね。一番技術レベルが高いのはうちだと自負しています。この手術が始まったのは6~7年前で、脳腫瘍の患者さんの手術のときに、覚醒下で行っています。初めてこの手術をしたときには感動しました。この手術中、脳を露出した患者さんが普段どおりに、私たち医師と話したり、手を動かしたりします。脳には痛覚がありませんので、皮膚などに局所麻酔を効かせておけば、患者さんはほとんど痛みを感じずに開頭手術ができるのです。
中川:
驚きですね。覚醒下での手術のメリットというのはどういうことがあるのですか?
篠浦:
患者さんの反応を見ながら手術が進められるということです。腫瘍を摘出するとき、脳の一部に電気刺激を与えたりしながら、患者さんの反応を見ます。これまでの脳外科手術では、全身麻酔で行っていましたので、手術中に、大事な機能のある部分の神経回路に傷をつけてしまって、麻痺や失語症が残ったりしたこともありました。覚醒下で行えば、大事な神経回路を圧迫したりすると、即座に目の前の患者さんに変化が出るので、そこで手術をストップすることができます。その段階だと、少し休めば、回復することが多いので、手術によって障害が残ることを最小限に抑えることができます。
この間、女性の患者さんでしたが、自分の手術をずっとモニターで見ていた人もいました。途中で出血があったりして、それでも動揺しませんでしたからね。大変なツワモノだと感心しました。
中川:
そういう時って、女性の方が強いみたいですね(笑)。私だったら、怖くて見られないですよ。
そうやって、何例もの患者さんの手術を覚醒下で行われているわけですが、その手術をするうちに、脳の機能が具体的にわかってきたということです。
篠浦:
右脳は感性の脳、左脳とは論理の脳と、よく言われますが、確かに右脳と左脳の機能は違います。右の前頭葉の手術をしていると、それまで普通に会話できていた患者さんの集中力が急に途切れ、眠くなり始めることがあります。逆に、左の前頭葉の手術をしているときには、数を逆に言っていくような簡単なことも面倒くさがり、怒り出したりします。
外来に来られる方で観察しても、右脳に障害のある方は、どこか活気がありません。知的なことは問題なくこなせるのですが、料理などをすると非常に時間がかかったりします。左脳に障害があると、気分が高揚していてお酒を飲んだときのように、よくしゃべります。しかし、感情の起伏が激しくて、急に怒りっぽくなったりします。複雑な課題に取り組むのが苦手で、不機嫌になったりします。
中川:
面白いですね。氣は、よく右脳だと言われていますが。
篠浦:
そうでしょうね。右脳は、直観とか感性とか芸術の脳ですし、他人の考えを憶測したり、感情を読むときに使われますね。
日本人は基本的には右脳の民族です。右脳は多義的と言われていて、さまざまな価値観を同時に受け入れられてそれを器用にこなせる脳です。日本人のように、宗教でも、あらゆるところに神様はいるし、神道も仏教もキリスト教も受け入れられます。変化の多い社会の中でもすばやく対応できるという特徴があります。
しかし、右脳に過大なストレスがかかるとどうなるかというと、防衛反応として、人は逃げようとします。手術中でも右脳に刺激を与えると逃げ出そうとする人もいますからね。それが高じるとうつ病になって、自殺に結びつきやすくなります。

(後略)

(2012年4月18日 都立駒込病院にて 構成:小原田泰久)

著書の紹介

左上:「臨床脳外科医が語る人生に勝つ脳」(技術評論社)
右下:「人に向かわず天に向かえ」(小学館)

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