2012年6月 「有田 秀穂」さん
- 有田 秀穂(ありた ひでほ)さん
1948年東京生まれ。1973年東京大学医学部卒業。その後、東海大学医学部内科で臨床、筑波大学基礎医学系で脳神経の基礎研究に従事。その間ニューヨーク州立大学に留学。現在東邦大学医学部統合生理学教授。セロトニン研究の第一人者。脳内セロトニンを活性化させる技法を教えるセロトニン道場の代表。著書は、「脳からストレスを消す技術」(サンマーク出版)、「セロトニン脳健康法」(講談社+α新書)、「セロトニン欠乏脳」(NHK生活人新書)「思春期の女の子の気持ちがわかる本」(かんき出版)など多数。
『セロトニン脳でストレスと上手に付き合う』
ストレスには勝てないからうまく受け流すようにする
- 中川:
- 私どもは、氣という癒しのエネルギーをベースにして意識とか気づきの大切さをお伝えしています。私の父の代から25年ほどやっている中で、氣を受けることによってさまざまな変化が起こってくることは、体験的にわかってきました。しかし、理論的には説明できないことが多々ありまして、何とかもっと多くの人にわかりやすいようにお話できないかと思ってきました。
ちょうどそんなときに、和歌山でクリニックを開業されている西本真司先生から、有田先生のことをお聞きし、ご著書を読ませていただきましたら、いろいろな疑問が解けていきました。これは、ぜひお会いしてお話をうかがいたいものだと思いまして、今日、こういう機会を設けていただきました。
さっそくですが、まずはいろいろな病気の原因とされているストレスについてお聞きしたいと思います。先生は脳科学という視点で、ストレスについて語っておられますね。 - 有田:
- よろしくお願いします。ストレスですが、私たちの脳は、心身が不快に感じることは、すべてストレスと認識します。仕事のプレッシャーとか人間関係のトラブルといった精神的なものばかりでなく、痛みとかかゆみ、疲れ、空腹、暑さ、寒さなどもストレスです。
つまり、人は生きている限り、何らかのストレスを感じているということです。よく、ストレスに打ち勝つと言いますが、ストレスというのはどう頑張ってもなくなることのないものですから、打ち勝とうとすることが無理な話です。打ち勝とうとすると、それが余計にストレスになってしまうという矛盾をはらんでいるのです。
では、どうしたら、なくそうと思ってもなくせないストレスとうまく付き合うことができるのか。この問題に世界で最初に取り組んだのがお釈迦様でした。お釈迦様は6年間、大変な苦行をします。まさに、ストレスに戦いを挑んだわけです。しかし、結果は完敗でした。お釈迦様でもストレスには勝てなかった。その経験によって、お釈迦様は、ストレスには勝つことはできない、だから上手に受け流せばいいと気づきました。これは、最新の脳科学がたどり着いた結論でもあります。 - 中川:
- ストレスをなくそうとするのではなくて、あって当たり前だと思うことですね。どうやったらストレスを上手に受け流せるかということを考えることの方が重要で、それができないから、現代は、うつ病をはじめ、さまざまな病気が蔓延しているということでしょうね。
- 有田:
- ストレスについての西洋医学的な研究は、100年ほど前、ハンス・セリエというカナダの免疫学者が取り組みました。ストレスという言葉も、彼の提唱した「ストレス学説」によって認知されたものです。
セリエは、生体にストレスがかかるとどうなるかを、動物実験で調べました。ストレスを受けると、生体はストレスホルモンを出します。そして、そのストレスがずっと続くとどうなるか見るため、ラットにストレスをかけ続けたところ、ラットは死んでしまいましたが、その過程でとても興味深いことがわかりました。最初にストレスがかかったときには、ラットは何とかしようと大騒ぎしました。払いのけよう、打ち勝とう、逃れようとするわけです。このときには、自律神経の交感神経が緊張して、血圧も代謝も上がりました。しかし、しばらくして、いくら抵抗してもらちがあかないとわかると、生体は抵抗しなくなりました。血圧も上がりません。
そのときに、ラットの体に何が起こっているか、セリエは調べました。胃潰瘍ができていました。胸腺やリンパ腺が委縮していました。副腎皮質が肥大していました。これは、「セリエのストレス三兆候」と呼ばれていて、ストレスを受け続けると、生体に必ずと言っていいほど起こる反応です。 - 中川:
- ストレスによって肉体にも変化が出てくるわけですね。副腎皮質というのはよく聞きますが、ステロイドホルモンを出すところでしたよね。ステロイドというと、アトピー性皮膚炎で治療薬として使われているので、よく耳にします。これが、ストレスホルモンなのですね。
- 有田:
- そうですね。おっしゃるように、ステロイドというのは副腎皮質ホルモンのことです。アトピー性皮膚炎や火傷などの炎症に効く薬ですが、これが体内で出すぎると、高血圧になったり糖尿病になったりします。また、副腎皮質ホルモンは免疫を抑える作用があります。これが大量に分泌されるということは、免疫を低下させますから、病気にかかりやすくなります。
さきほど、ストレスが続くと、ラットも抵抗することをやめると言いましたが、体内でも副腎皮質ホルモンを大量に出して免疫を抑制し、外敵と戦うことをやめてしまうという現象が起こってきます。
(後略)
(2012年4月4日 東邦大学医学部にて 構成 小原田泰久)
- 著書の紹介
左上・「思春期の女の子の気持ちがわかる本」(かんき出版)
右下・「脳からストレスを消す技術」(サンマーク出版)