今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2012年4月 「森山 徹」さん

森山 徹(もりやま とおる)さん

1969年生まれ。神戸大学理学部化学科卒。同大学院の博士後期課程修了後、公立はこだて未来大学助手、助教をへて、現在、信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点(繊維学部応用生物学系バイオエンジニアリング課程)助教。専攻は、比較認知科学、動物心理学。「オカダンゴムシにおける状況に応じた行動の発現」で日本認知科学会奨励論文賞を受賞。著書に「ダンゴムシに心はあるのか」(PHPサイエンス・ワールド新書)がある。

『科学の目で心に迫る。ダンゴムシにも心があった!』

心は発達した大脳のみに宿るわけではない

中川:
ある書店へ入ったら、先生の書かれた本が、ぱっと目に止まりました。「ダンゴムシに心はあるのか」という、とても興味をそそられるタイトルだったので、さっそく買い求めて読ませていただきました。面白かったので、ぜひお話をうかがいたいと思いまして、研究室までお邪魔した次第です。よろしくお願いします。
森山:
ありがとうございます。お送りいただいた雑誌を拝見しましたが、中川会長は工学部のご出身だそうですね。
中川:
機械工学です。卒業後は、電機メーカーで研究開発の仕事をしていました。森山先生も、メーカーで開発の仕事をされていたそうですね。
森山:
私は化学の出身で、修士課程を卒業した後、やはり電機メーカーに就職しました。電車の推進制御装置の新製品開発グループというところに配属されまして、大電力半導体の開発にかかわっていました。
中川:
私は化学の出身で、修士課程を卒業した後、やはり電機メーカーに就職しました。電車の推進制御装置の新製品開発グループというところに配属されまして、大電力半導体の開発にかかわっていました。
森山:
当たってますね(笑)。心って何だろうということは昔から興味がありました。学部のときは、化学も面白くて一生懸命に勉強しました。しかし、化学というのは、根気が勝負の研究ですからね。ノーベル化学賞を受賞された、ある先生の研究室では24時間電気が消えなかったという話を聞いたことがあります。その精神力には大いに感心しますし、当時の先生や先輩から学んだ研究者の心構えが、今の私の研究を支えています。しかし、当時の私は、そのような態度を続けられるかどうか不安でした(笑)。それで、もともと興味のあった心や意識について研究してみようという気持ちになり、修士課程では、個人的に興味のある研究をさせてくれる研究室があったので、そこで勉強をすることにしました。しかし、どう研究を進めていいかわからなくて、試行錯誤でした。ただ、「心は発達した大脳のみに宿るという考え方には賛成できない」という思いはあったし、それを示すには「動物が行動を自分で選択するという様相を実験で提示することが必要なのではないか」という考えまではたどりついていました。
そこまでは行っても、その先へはなかなか進みません。そんなある日、今でも共同で研究をしている同級生が、「タコって面白そうだなあ」というようなことを言っているのを聞いて、私はこれもきっかけだと思い、タコで研究をすることに決めたわけです。
中川:
最初はタコだったのですか。でも、心というと、人間だけにあると考えたり、せいぜい、犬とか猫に心があるかなというくらいの見方しかできないのに、タコで実験しようというのは、なかなか出ない発想ですよ。先生の研究のポイントとなっているのは、心とは何かを独自に定義していることだと思います。その上で、対象となる生き物と長く付き合う中で、心の存在を明らかにするというアプローチをしているわけですが、なかなか根気のいる研究ですよね。
森山:
この定義も、独自と言えば独自だし、自分勝手と言えば自分勝手なものですけどね(笑)。科学の現場では、心というと、脳の特定部位の働きによるものだと思われています。しかし、心の概念を「脳の特定部位」だと言う科学者は、自分の知り合いの、心を司る脳の特定部位が機能しなくなったとしたら、その人は心も失ってしまったと考えるかと言うと、そうじゃないと思いますね。心を感じるはずです。記憶や思考、判断といった認知的活動や感情を司る特定部位が脳にあるのは確かですが、その機能を挙げ連ねるだけでは、心とは何かという問いへの答えにはなりません。心というのは、もっと抽象性の高いものではないかと思いますね。
中川:
先生は、心というのを、「私の中にある何者か」というとらえ方をされていて、それは第六感で把握する気配のようなものだと言われていますね。ある人を前にして、その人に心があると思うのは、その人の内に隠れている気配を感じるからだとおっしゃっていますが、これは、まさに氣のことだなと、私は思いました。私どもがやっている真氣光というのは、私の父が始めたものですが、父が「氣は心だ」と、ずっと言っていたのを思い出しましたよ。

(後略)

(2012年2月1日 信州大学上田キャンパスにて 構成 小原田泰久)

著書の紹介

「ダンゴムシに心はあるのか」(PHPサイエンス・ワールド新書)

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