2010年11月 「新城 卓」さん
- 新城 卓(しんじょう たく)さん
1944年沖縄生まれ。映画監督。今村昌平、浦山桐郎らの助監督をへて、1983年に沖縄人としての葛藤を描いた「オキナワの少年」で監督デビュー。その後、八重山諸島を舞台にした「秘祭」、知覧の特攻隊員を描いた「俺は、君のためにこそ死ににいく」などの監督を務める。1974年に制作された「氷雪の門」では助監督を務め、1998年に「氷雪の門」上映委員会を立ち上げる。
『36年たって上映が実現。隠された史実を知らないと、本当の平和は語れない。』
8月15日に終戦を迎えていたのに樺太では悲惨な出来事が
- 中川:
- はじめまして。私どもの会員さんが、こんな映画が話題になっていると、新聞記事を送ってくれました。それが「氷雪の門」で、私もさっそく拝見したのですが、36年前に封切られるはずだったのに、それが今になってやっと日の目を見たということで、とても興味深く見させていただきました。新城監督は、この映画を上映にこぎつけるために、中心になって動かれたそうですが、樺太のことについては、前々から興味がおありだったのでしょうか。
- 新城:
- 観ていただいてありがとうございました。私は、36年前に、そのころの出来事を映画にすることになった際、助監督としてこれに関わることとなり、台本をもらってから史実を調べてみたのです。樺太に関する資料はあまりなくて、北海道へ引き上げた人に取材をしたり、六本木にある樺太連盟で話を聞いて、こんなことがあったんだと唖然としましたね。
- 中川:
- 戦前、樺太は南半分が日本の領土だったんですよね。実は、私の母方の祖父が、熊本から樺太に渡りまして、あの映画のころは、母は6歳だったと思いますが、樺太で暮らしていて、命からがら逃げ帰ってきたという体験をしています。戦争が終わったのにソ連が攻めてきたと、幼心にも恐怖があったのでしょう、よく話してくれました。それまで比較的平和に暮らしていた樺太の人たちが、日本が降参した後で、ソ連の攻撃で大変な目にあうわけですね。そんな中に、電話の交換手をしていた若い女性たちがいて、彼女たちが、家族や恋人のことを思いつつも、自分たちの仕事がとても大切だということで、ソ連軍が攻め込んできても仕事を放棄せず、最後には自ら命を絶つという悲劇を、映画では描いていました。私も、北海道出身で、稚内へも行ったことがあって、そこに氷雪の門というモニュメントがあったので、樺太であった悲しい出来事のことは知っていましたが、映画を拝見して、その現実をリアルに知ることができました。平和のこと、戦争のこと、家族のこと、生きるということ、いろいろなことを考えさせられました。それにしても、私たちは8月15日に戦争は終わったと教えられていますが、樺太ではその後も戦争は続いていたわけですからね。それも、一方的に攻撃されて、一般人がバタバタと亡くなっていたというのは、映画を見ていて胸が締め付けられる思いがしました。電話交換手の女性たちが自決したのが8月20日ですからね。
- 新城:
- あの映画は、間違いのない史実を描いたものです。そんな話は、教科書にも出ていないし、先生も教えてくれません。広島、長崎に原爆が投下されて、日本がひん死の状態のときにソ連は参戦してきて、満州や樺太に攻め込んできました。樺太には、囚人部隊を送ってきています。だから、半端ではないですよ。逃げ惑う婦女子に投降を呼びかけもせず、後ろから撃っているわけですよ。そんな事実が公にされればソ連も困りますよね。だから、映画上映には横やりが入ったんですね。
- 中川:
- だけど、大変な大作で、相当なお金をかけていると思うのですが。
- 新城:
- おっしゃる通り、超大作ですね。当時で、映画にかける製作費というのは普通は3億円くらいでしたが、この映画は5億円かけていますから。戦車が出てきますが、もちろんあれは本物です。自衛隊の全面協力を得て、あの戦車が使えたわけです。自衛隊が映画に協力するなんてことはありませんから。前代未聞のことです。戦車は、アメリカ軍が日本に上陸するときのために作ったもので、それが御殿場に15台あったので修理して使わせてもらいました。砲撃するシーンがあるでしょ。あれは実弾です。実弾だと10万円、空砲だとその半分くらいでいいと言うので、実際に撃ってもらったら、迫力が全然違うんですね。それで、実弾でやりたいと言ったら、お金は大丈夫ですねって聞かれて、「えーっと」と考えていたら、ドーンドーンと撃ち始めました。だけど、その費用の請求もなかったし、後日、自衛隊に聞いたら、映画に協力した記録はないと言われました。ここでも、何か裏の力が働いていたんでしょうね。
<後略>
(2010年9月22日 東京日比谷松本楼にて 構成 小原田泰久)
- DVDの紹介
樺太1945年夏 氷雪の門
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