今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2008年9月 「石田 秀輝」さん

石田 秀輝(いしだ ひでき)さん

東北大学大学院環境科学研究科教授。工学博士。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学。78年に伊奈製陶株式会社(現・INAX)に入社。同社空間デザイン研究所所長、取締役研究開発センター長を歴任し、2004年9月より現職。「人と地球を考えた新しいものづくり」を提唱。

『自然から学ぼう!  循環型社会を創り出す粋なテクノロジー』

自然界から学ぶネイチャーテクノロジー

中川:
はじめまして。先生のご研究を、新聞記事やホームページで拝見してとても興味をもちました。ひとことで言うと、自然から学ぶもの作りかと思いますが、私ももともとは技術者で、ゾウリムシやミジンコの動きを参考にしてマイクロマシンという小さな機械を開発するという仕事をしていました。
自然というのは、いかに合理的で精密にできているかというのを痛感したのを思い出します。
先生はINAXにおられたそうですが、どうして大学で研究することになったのですか。
石田:
INAXには25年勤めました。50歳を機に会社を辞めて、ここへ来たわけです。
もともとは鉱物をやっていまして、コテコテの技術屋でしたが、90年ごろに、地球の循環が大切だということに気づきました。省資源や省エネルギーも大事だけど、もっと地球の循環に視点を置いて、セラミックを作ったらどうだろうと思うようになったのです。それで、焼かないセラミックというのを考案しました。土は優れた断熱性をもち、土がもつ数ナノメーターの小さな孔は、湿度を自動調整してくれます。この土の構造を維持したまま固めて、壁や天井、床に張ると、エアコンが必要なくなります。
自然の中にヒントになるものはいくらでもあります。会社で自然探検隊というのを作って、たとえば、かたつむりや卵の殻は、汚れがつきにくいことを発見すると、それを参考に汚れない外壁材を作ろうと考えたりしました。
自然の中には学ぶべきことがいっぱいあります。でも、それに気づくには、鳥瞰(ちょうかん)的に広く見る目がなければなりません。今は、問題が起こってそれに対処する教育ばかりが行われていますから、本質を見る目が養われていません。本質を見る目を養う教育、それに研究、そして普及というのを考えて、会社を辞めて大学で勤務することにしました。
中川:
土がエアコン代わりになるというのはすごいですね。かたつむりや卵の殻は確かに汚れがつかないですし。ほかにはどんな技術があるのですか。
石田:
ハスの葉は水をはじきます。葉の表面に微小なでこぼこがたくさんあり、そのすき間に空気が入ることで水が付着しないようになっています。この構造を利用して濡れない布が開発されました。カイコやヤママユガなどの天然のまゆは、紫外線をカットし抗菌性をもっています。この性質は、繊維だとか美容液として使えます。
こうした自然界がもっている高い機能を模した技術をネイチャーテクノロジーと名づけました。高機能というだけでなく、エネルギーや資源を使わないという意味で、循環型社会を作るにはとても役立つ技術です。
中川:
ネイチャーテクノロジーですか。いいネーミングですね。今まで、自然を支配し、搾取して文明を築いていたのに対して、自然から学ぶという姿勢で新しい文化なり文明を作っていくということですね。
石田:
その通りですね。今の文明は、地球上のあらゆる生物に配慮することなく、人間の発展と繁栄を第一目標にしてきました。自然が奴隷のように使えると思っていました。ベーコンやデカルトがそれをとことん突き詰め、彼らの思想が引き金になって産業革命が起こりました。私は、それを地下資源文明と呼んでいるけど、その結果が、高エネルギー消費であり、地球への負荷もどんどんと大きくなってきています。地下資源文明はもう完全に行き詰っています。
これを打破するには、自然から学ぶ姿勢が大切です。それを、私は生命文明と呼んでいます。人間も自然の一部と考え、人間と自然の共生・融合を図るというものです。
中川:
地球温暖化やさまざまな災害によって、何とかしなければという意識は出てきていますからね。物質文明は行き詰っているという実感は出てきているでしょうね。
石田:
意識は高まっているけれども、具体的に何をすればいいかがわかっていません。ゴミを分別するとか、節電するとか、何か夢のない行動しか示されていません。もっと、ワクワクドキドキするものがあってもいいと思うんです。それを提示するのが、テクノロジーの役割だと思います。そこを私はやってみたいと思っているわけです。

<後略>

(2008年7月7日 東北大学大学院環境科学研究科 石田研究室にて 構成 小原田泰久)

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