今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2007年6月 「朝日 俊彦」さん

朝日 俊彦(あさひ としひこ)さん

1946年香川県高松市生まれ。1972年岡山大学医学部卒業。1979年岡山大学医学部講師を経て、1982年香川県立中央病院泌尿器科部長、2007年3月退職。現在、日本ホスピス在宅ケア研究会副代表、日本尊厳死協会理事、香川ターミナルケア研究会世話人、かがわ尊厳死を考える会会長。医学博士。著書に『笑って大往生』(洋泉社)『あなたは笑って大往生できますか』(慧文社)など。

『誰もが必ず迎える死… いい死に方をサポートしたい』

「死は受験」。慌てずに早い時期から準備を

中川:
先生のご著書『あなたは笑って大往生できますか』を拝読しまして、これは是非お会いしてお話をうかがいたいと思いました。また、知人がテレビで先生のお話を聞いて、いいお話だったと教えてくれました。
朝日:
NHKですね。今年初めに出させていただいたのですよ。その前に去年の9月に2晩にわたってNHKラジオ深夜便「こころの時代」でお話したのですが、このときは『あなたは笑って…』を読んでくださった方からの推薦によるものでした。
中川:
私どもは、「見えない氣というものがあり、これは光でありエネルギーであり、魂、心といったものと密接に関係している。そして、心を豊かにしていくと光が増して、周りの人をも楽にして差し上げられる」というようなことをお伝えしているのですが、先生のおっしゃることとオーバーラップしている部分も多く、共感しました。はじめは、お坊さんが書かれた本かなと思いましたら、現職のお医者さんだと(笑)。
朝日:
今の日本では、医者は治すのが仕事で、死を扱うのはお坊さん、ということですからね。でも、実際には現在、病院で亡くなる方が8割以上です。癌の患者さんの場合でしたら93%です。毎年亡くなる方が100万人ですから80万人が病院で亡くなっているわけです。病院は、そういう意味では、死ぬ場所なんですね。
よく、病院のランキングがあるでしょう。この病院に行けば良い手術をしてくれるとか、設備の整った病院や、最新技術を取り入れているのはここ、というようなランキングです。でも、ここに行けば安らかな温かい看取りができる、というようなランキングはありませんよね。
中川:
お医者さんは死については話さないし、患者さんも触れたがりませんから。
朝日:
でも、人は誰でも間違いなく死ぬのですから、治すだけが医療か?と思うんですよ。全部の方が治るかといったら、それは無理なのですから、辛い治療を受けて苦しんで悩んでというより、言葉は悪いかもしれませんが、気持ち良く死んでいただくことが重要でしょう。そして、医者はいい死に方をサポートすることも大事だと思うのです。
中川:
病院のお医者さんとしての長いお仕事から、そういう思いに至られたのでしょうね。
朝日:
そうです。35年間医者をしていますが、もちろん興味があったのは“治すこと”でした。治らなければ、達成感がないじゃないですか。死は医療の敗北だと言われていました。でも、それでしたら80万人が亡くなるそのときは、いつだって敗北でしょう。私は割合に早い時期の昭和58年から、ガン告知を始めました。まだ日本では少数派でしたから、英文の論文を読んだりしながら、試行錯誤して始めたのですが、「告知」から「死」を見つめることになり、それからいろいろと勉強して、実践して、その繰り返しで学びを深めてきました。
遺族の方々に集まっていただき茶話会をもって、話を聞かせてもらいました。今、家族を入院させている家族の方は、いわば病院に「人質」をとられているようなものだから(笑)、医者にはなかなか本音は言いづらいでしょう。でも、遺族はもう人質がいないのですから言える。そういう先輩の方々の意見を聞くことも、勉強になりました。
長い人生を共に過ごしたご夫婦は、いつも春風が気持ち良く吹いているときばかりではなかったでしょう。でも、死の間際にご主人が万感の思いを込めて「カアチャン、有り難う」と言ってくれたという方は、遺された後も心が安定しているんですね。一方、無念の死、未完の死を迎えてしまった場合は、ああしてあげれば良かったという後悔があり、それがトラウマになり、キズになっているのですね。だから、ご本人に死を告知してご夫婦で、いい時間を持てるように配慮することが必要じゃないかと思うのです。
中川:
感謝の気持ちは、いいエネルギーですから、そういういい氣の交流はお互いの心を癒しますね。
朝日:
私は看護学生に「死は受験」だと言っています。英語、国語、数学、理科、社会の受験勉強を3日でやれ、と言ったらパニックになってしまいますよね。死だって、急に言われたら慌てますよ。早い時期から少しずつ死の準備をしていくことが大事でしょう。
中川:
そしてまた、今、生きている時間をより良くするために死を考える、そういうことでもありますね。

<後略>

(2007年3月3日 日本尊厳死協会 四国支部にて 構成 須田玲子)

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