今月の対談「いい人いい話いい氣づき」

2004年12月 「尹 基」さん

尹 基(ゆん き)さん

1942年、韓国木浦市で生まれる。1968年、木浦共生園園長に就任。以来、木浦・ソウル・済州島と堺・大阪・神戸などの地域に14の施設をつくる国際ソーシャルワーカーとして活躍中。韓国青少年問題研究所所長、韓国社会福祉士協会会長、ソウル特別市低所得者対策委員などを歴任。日本では「在日韓国老人ホームを作る会」を提唱し、福祉の国際化・文化化・大衆化を推進。現在、「こころの家族」理事長。著書『愛の黙示録(原題・母よ、そして我が子らへ)』(汐文社刊)。『風のとおる道』(中央法規刊)など。

『相互交流し理解することで心の壁を越えられる』

見えないものを大切にし そこから学ぶ

中川:
はじめまして、中川です。今日は快くお引き受けくださいまして有り難うございます。
尹:
送っていただいた会報誌を拝見しました。目に見えないものを大切にしておられる。社会福祉にも関係が深いと思いました。
中川:
“氣”は目に見えませんが、確かに存在していて、人の心もそうですね。心の持ち方をプラスに変えていくことで、いい氣も出るのですよ、ということをお伝えするセミナーなども開催しています。実は今日もその4泊5日のセミナーを終えて、こちらにうかがったのですが。
尹:
そういう施設があるのですか。
中川:
奈良の生駒に研修所があります。また北海道から沖縄まで8ヶ所にセンターがあります。こちらから一番近いのは、谷町4丁目にある「大阪センター」ですね。
尹:
韓国語には、「知恵」を意味する「(スルキ)」、「特技・得手」を意味¥r¥nする「(チャンキ)」、そして「根気」を意味する「(クンキ)」などがあります。日本にも、「気力、気分、気持ち」など、たくさん「気」のつく言葉がありますね。これは余談ですが、私の名前は「ユン・キ」です。「基」と書きますが、発音は同じ“き”ですね。「ユンキ」にも、潤いやゆとりの意味があります。中川さんとお会いするのも何かのご縁かなと、スタッフとも話していたのです。
中川:
私も、よく「ご縁ですね」、と言います。セミナーを受講される方にも、ここに一緒に集まったということは、ご縁があったからだと。尹さんとも、こうしてお目にかかれたご縁を有り難く思います。
尹:
以前に中川さんの会報誌に、私の著書『愛の黙示録』を紹介していただいたのも読みましてね、これはお会いしなければと思いました(編集部注・本誌2002年4月号No・143に掲載)。
中川:
私も『愛の黙示録』を読ませていただきましたが、後に映画化されたそうですね。日韓合同映画で韓国による日本の大衆文化解禁第1号となった作品と聞いています。韓国と日本は以前大変不幸な関係がありました。韓国や朝鮮の人々は、辛く苦しい思いをされた方々が大勢いらっしゃる。そういう歴史をふまえて、お互いに理解し合っていくことがとても大切だと思っています。
お母様が、当時日本が統治していた韓国でキリスト教伝道師のお父様と結婚されて、生涯に3000人の孤児を育てられたそうですね。
尹:
そうです。私の父は韓国人、母は日本人です。私は韓国人だと思っていましたが、日本人なんです。母が一人娘だったので、父が母の戸籍に入ったからです。母の生涯を描いた映画『愛の黙示録』が両国の大衆文化開放のきっかけになりました。民衆レベルで交流し、お互いに理解し合うことが大切だと思っています。
中川:
ご両親のことを少しお話しいただけますか。
尹:
母は高知県に生まれました。祖父は朝鮮総督府木浦府に勤めていました。木浦は朝鮮半島の最南端にある港町です。母も7歳から木浦で暮らすようになり、当時は多くの日本人が住んでいて、母は日本人の学校に通いました。父は「木浦共生園」を設立し、街中の孤児を自分の子供のように思って世話する中で、子供たちに笑顔がないから、どなたか音楽を教えてくれるボランティアはいないかと探していました。
音楽教師だった母が子供たちに音楽を教えるようになったのは1936年です。母は父の生き方に感動し、父と結婚しました。ところが日本は戦争に負け、木浦に住んでいた日本人は皆ひきあげる。その後1950年の朝鮮戦争の時、父は孤児たちの食料を調達に出かけたまま行方不明になったのです。
中川:
長い日本の支配から解放されて、反日感情がすごかった韓国で、お父様がいらっしゃらなくなって、日本人のお母様が大変でしたね。
尹:
ひどい貧困の中で、母はただただ孤児のために一生懸命に生きてきました。母は1968年に56歳で亡くなりました。初の木浦市民葬が営まれ、3万人の市民がお葬式に参列しました。この時、木浦市民から『国籍よりも人間を優先する市民精神』を学びました。

<後略>

(2004年10月13日  大阪府堺市の「故郷の家」にて 構成 須田玲子)

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